海外が先行する「カーボンリサイクル」のルール作り、日本の現状とビジネスチャンスは?欧米先進事例から考える日本のカーボンリサイクルの展望(3)(4/4 ページ)

» 2023年04月27日 07時00分 公開
[株式会社クニエスマートジャパン]
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日本カーボンリサイクル産業の現状

 2050年までにカーボンニュートラルの目標を達成するには、CO2分離回収、資源化、固定化技術の研究開発をオールジャパンで取り組むことが必要であるとの考えから、国立研究開発法人産業技術総合研究所は2021年9月に「CO2分離回収・資源化コンソーシアム」を設立した。すでに100社以上の会員が登録しており、CCUS技術に関心を持つ日本企業が増えている。

 技術面では、カーボンリサイクルとしてCO2を吸収して生産するコンクリート・セメントの実用化には至っているが、コストが高いこと(既存コンクリートの約3倍の100円/kg)、用途・市場が限定的なこと、大量CO2回収技術が未確立であることが商用化の課題になっている。カーボンリサイクル燃料(航空燃料・合成燃料)についても、安定供給、高コスト、製造技術の確立等の課題が存在し、商用化への道のりはまだ遠い。

日本企業のビジネスチャンスは?

 富士経済によると、カーボンリサイクルの世界市場規模は2050年に276兆円超に達すると予測されている。また、IEA(国際エネルギー機関)は2070年のCCUSによるCO2削減量は世界で約69億t/年と予測した。このような規模の大きい市場において、欧米企業が先行するなか、日本企業にもビジネスチャンスはあるのか。

 日本企業がカーボンリサイクル市場で発展していくには、まず、国内では、制度/政策の整備が必要と考えている。すでに日本国内におけるCO2排出量削減ニーズはあるが、炭素税の水準見直しや排出量取引制度の導入等で、根本的にCO2削減に対するニーズをさらに拡大し、脱炭素関連産業の活発化を促進するという前提が必要だろう。

 そのうえで、市場については、日本国内のみでは限定的となるため、グローバルでの事業展開に関する戦略を策定しなければならない。その場合、必ず海外の関連規制/政策の影響を受けるため、海外のローカル有力企業と提携したうえで日本企業の技術力を生かして事業の拡大を目指すべきであると考える。

 技術の開発/蓄積の面では、1980年代からCO2を有機燃料に変えて繰り返し使う技術を開発してきた日本企業はカーボンリサイクルの関連技術ノウハウを蓄積していると推察している。ただし、全般的に技術/事業の商用化が進まない中で、ある程度の優位性を有するレベルの技術の実証、社会実装を試みることは、他の事業より優先順位が低くなってしまい、その推進が遅れてしまいがちである。

 しかしながら、脱炭素社会実現という意識が高まっている環境のなかで、企業は社内で眠っている脱炭素関連技術をどうマネタイズするか、技術戦略をどう脱炭素ビジネスに即したものに調整していくかということは、今後事業を成長させるうえで、ますます必要となっていくのではないか。

 蓄積した技術力を武器とする日本企業はカーボンリサイクル産業にも、ビジネスチャンスがあるだろう。日本の制度/政策の整備をはじめ、海外政策/規制等の環境変化や技術動向等の最新情報収集、業界を越える産学官の全体連携強化、革新的なビジネスモデルの検討等が不可欠である。これからの日本のカーボンリサイクル事業の発展に期待したい。


著者プロフィール


株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 パートナー 胡原 浩(こはら ひろ)

グローバルストラテジー&ビジネスイノベーションリーダー。主に経営・事業戦略、経営企画・改革支援、新規事業戦略、M&A、イノベーション関連等のプロジェクトを担当。 グローバルにおける脱炭素・カーボンニュートラル、エネルギー、EV/モビリティ、蓄電池とハイテク関連の経験豊富。 早稲田大学理工大学院卒業、早稲田大学経営管理研究科(MBA)。



株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 マネージャー 祁 兵(き へい)

M&Aアドバイザリーブティック、日系コンサルティングファーム、ビッグデータ分析会社を経て現職。製造業を中心に、事業戦略・知的財産戦略の策定、事業拡大・新規事業開拓、M&A、脱炭素の戦略策定・実施等を支援。



株式会社クニエ グローバルストラテジー&ビジネスイノベーション担当 シニアコンサルタント 赫 晨瓏(かく しんろう)

ハイテクメーカー、日系コンサルティングファームを経て現職。電力エネルギー・モビリティ・環境分野を中心に、企業の事業戦略策定やDX・GX推進、海外進出等を支援。



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