主要国のエネルギー戦略における水素の扱いはどう違うのか? 〜その役割と将来展望〜「水素社会」に向けた日本の現状と将来展望(1)(3/4 ページ)

» 2023年07月24日 07時00分 公開
[株式会社クニエスマートジャパン]

(i)EUの状況と展望

 EUは、脱炭素化の実現に向けた最重要技術の一つに水素関連技術を位置付けており、特にグリーン水素関連技術を中心に置いている。この方針に基づき、域内での水素需要喚起、水素関連の法整備やインフラ整備を進めつつ、水電解装置設置などのグリーン水素の供給力向上プロジェクトに対して財政支援を強めている。

 EUが水素に注力する背景としては大きく2つある。

 1つ目は、ロシアのウクライナ侵攻以降を機にEUのエネルギー安全保障が脅かされていることである。それまで天然ガスを中心とする化石燃料をロシアからの輸入に頼っていた国が多かったが、脱ロシアを進めるべく2022年3月にREPowerEU(リパワーEU)を発表。2023年2月には予算規模8億ユーロのグリーンディール産業計画など、水素導入目標の引き上げやそれを支援する枠組みなどを相次いで発表した。

 2つ目は、米国や中国も水素産業を強化する計画を打ち出しており、これまで築き上げてきた優位性を奪われるかもしれないという危機感である。このままでは域内投資の減少を招く恐れがあったため、水素への支援を強めている。

 EU全体で水素需要を喚起しているが、当然国別ではその濃淡が分かれる。それを可視化するため、水素需要として主に想定される産業用途における、2030年時点でのEU各国(英国など非EU国も混合)の水素需要見込みを図3で示す。ドイツが抜きん出ているが、これは主にCO2排出量が多い化学、鉄鋼、セメント業界向けの需要であり、産業大国ドイツならではとも言える。

図3  2030年における産業用途としての水素需要出典:Hydrogen Europe “Clean Hydrogen Monitor (2022)”(https://hydrogeneurope.eu/clean-hydrogen-monitor2022/)よりクニエ作成

 ここで、EUの水素に関する国際ルールメイキングについても触れておく。図4にまとめた通り、EUは炭素税や排出量取引制度などのカーボンプライシングを世界に先駆けて施行してきた実績があり、脱炭素関連政策に関する国際ルールメイキングに力を入れていることで知られている。

図4 国際ルールメイキングにつながるEUの主な脱炭素政策一覧 作成:クニエ

 水素に関する国際ルールメイキングとしては、2023年5月17日に、環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける炭素国境調整メカニズム(CBAM) を世界で初めて発効しており、その対象品目に水素も加えられている。つまり、EU域外で製造した水素をEUに販売する際には、実質的な関税がかかる可能性がある。

 今後、より厳しい条件となることも想定されるため、EUの旺盛な水素需要を取り込みたい日本を含む域外の各企業にとっては、域内で水素生産拠点を持つことがリスクヘッジとなり得る。水素需要の高まりはEUに限ったことではなく、多くの国や地域に該当することであるが、EUが行う水素または脱炭素関連の国際ルールメイキングについては、常にベンチマークとして意識する必要があるだろう。

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