「水素社会」の普及・実現に向けた動きが加速する中、企業は今後どのような戦略を取るべきなのか。その示唆となる国内外の情報をお届けする本連載、第1回となる今回は米国やEUなど、各国における水素の位置付けや現状、今後の見通しなどについて解説する。
日本政府は2017年に「水素基本戦略」(2023年改訂)を、2020年には「グリーン成長戦略」(2021年より具体化)を策定し、水素産業の発展を目的に国として支援することで世界の水素産業をリードしてきた。世界各国も水素戦略を策定し、多額の助成金を拠出することで産業を支援し始めており、世界的にエネルギー源としての水素の存在感は増してきている。
一方、水素社会の普及・実現に向けては、政府の支援だけでなく、それを受けた民間企業の戦略的な取り組みが欠かせない。筆者はこれまで、民間事業会社やコンサルティング業務を通じて水素関連事業に携わってきたが、企業が水素関連事業の将来を検討する場合、その材料として「日本だけでなく世界各国の状況を把握したい」というニーズがあると感じている。
そこで本連載ではこうした企業のニーズに向けて、水素ビジネスのグローバルでの動向、諸外国の先進事例や日本でのビジネス状況・実装課題などを全3回にわたって解説していく。
世界的に脱炭素化に向けた取り組みが重要視される中、各国は自国の長期的なエネルギー政策などを策定することでカーボンニュートラルへの基本的な方向性を示している。その方向性はさまざまで、各国特有の気象条件や経済状況などを鑑みながら再生可能エネルギーや原子力などの各種電源を組み合わせ、最適なエネルギーミックスとなるよう検討を進めている。
その中で、化石燃料に代わるエネルギー源として水素への注目が大きくなっている。日本においても、「第6次エネルギー基本計画(2021年10月)」で、2030年度における電源構成の水素・アンモニアの割合が1%と初めて明記されたことは記憶に新しい。「たかが1%」と思うかもしれないが、量換算すると約90億kWh、つまり平均的な原子力発電所1基分と同程度であり、そのインパクトは大きい。
また、水素は電力(発電)部門だけではなく、電化が困難な産業や輸送部門の脱炭素化にも貢献する可能性を秘めており、各産業団体からも需要の高まりに対する期待の声が増している。
カーボンニュートラルというテーマで水素が語られる多くのケースで、「色」が付いた水素が登場する。その色分けは製造方法によって異なる(図1)。現在、製造されている水素の主流は「グレー水素」であるが、CO2フリー水素と呼ばれるのは主に「グリーン水素」と「ブルー水素」である。
グレー水素とは化石燃料の燃焼により製造された水素のこと、グリーン水素は再生可能エネルギー由来の電力を活用し水を電気分解することで得られる、製造から一貫してCO2を排出しない水素のこと、最後にブルー水素は排出されたCO2を回収して地中に埋めるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)技術などを活用して実質的なCO2排出量をゼロにした水素のことである。
これらの中でもグリーン水素は、化石燃料を使用せず、再生可能エネルギーの世界的拡大に伴い大きなコスト低減が見込まれることから、脱炭素エネルギー源として最も有望視されている。
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