海外の水素ビジネスの現況と企業事例、日本企業の事業機会はどこにあるのか?「水素社会」に向けた日本の現状と将来展望(2)(2/3 ページ)

» 2023年08月09日 07時00分 公開
[株式会社クニエスマートジャパン]

(b)水素ハブ港

 オランダにあるロッテルダム港は、これまで原油などの化石燃料に関する運搬拠点として役割を担ってきた欧州最大の貿易港である。同港を、欧州の水素ハブ港にする計画が進められている。具体的には、同港は2020年5月にグリーン水素のサプライチェーン構築を促し、同港を欧州における水素輸入/供給拠点として機能させる「水素マスタープラン」を公表している。

 同プランに基づき、オーストラリアからのグリーン水素の輸送に関する覚書を締結するなど、急ピッチで計画が進められている。オーストラリア以外にも、中東やアフリカを中心とする再生可能エネルギーが豊富に存在し安価なグリーン水素製造が可能な国々からの輸送プロジェクトが、今後も多く組成される見込みだ。

 域外から水素を輸入するに当たっては、さまざまな課題が存在するが、その中でも水素の海上輸送/貯蔵技術および国際間サプライチェーン構築については、日本企業に強みがある分野であり、事業機会があると筆者は考える(図2)。

図2 想定されるロッテルダム港への水素国際サプライチェーンルートと事業機会

 水素、液化水素、アンモニア、メチルシクロヘキサン(MCH)など、いずれの水素キャリアにおいても輸送/貯蔵に対応できる技術を持つ重工、造船、エンジニアリング企業などのプレイヤーが日本には存在する。それに加えて、液化天然ガス(LNG)などの化石燃料取引で国際間サプライチェーンの構築に実績を持つエネルギー企業や商社も多い。

 これらの企業にとっては、同港の水素ハブ計画に関与することでEU内でのプレゼンス向上につながることはもちろんのこと、水素輸送/貯蔵に限らず各バリューチェーンプレイヤーの動向に関する知見やノウハウの蓄積が可能となる。さらには、それらを活用することで、水素輸入国となる見込みの日本での水素輸入プロジェクトに対して、より広い視野で事業検討ができるようになるだろう。

(2)ミクロ観点

 次に、ミクロ観点で、デンマークに本社を置くオーステッド社のグリーンビジネスに対する戦略の方向性を紹介する。同社は欧州、北米、アジアなどグローバルで、洋上風力発電所を開発、建設、運営、所有する、再生可能エネルギー事業を中心に展開する企業だ。代表的なプロジェクトとして、2022年8月に稼働開始し、世界最大の1.3GWの発電容量を誇る英国ヨークシャー沖の洋上風力発電所「hornsea2(ホーンジー2)」が挙げられる。同社は、コペンハーゲンでのグリーン水素プロジェクト「H2RES」を皮切りに、グリーン水素プロジェクトに積極的な動きを見せている。直近では「SeaH2Land」という総出力2GWの洋上風力発電所と、1GW相当の水電気分解装置を連結することで年間10万トンのグリーン水素を生産する大型プロジェクトを主導している(図3)。

図3 SeaH2Landプロジェクト概要(出典:SeaH2Land Webサイト”を基に概略図としてクニエ作成)

 本プロジェクトで生産されたグリーン水素は、前述したEHBで作られる水素パイプラインで各需要家に供給される予定である。ポイントは、洋上風力発電所の建設/運営ノウハウを持つ企業が、洋上風力発電所の建設と併せてグリーン水素製造も主導することである。これにより、計画段階からグリーン水素を製造する上で最適な洋上風力発電所や水電解装置を設計することができ、より競争力があるプロジェクトを計画できると考えられる。

 グリーン水素製造を目的として洋上風力発電所と水電解装置を一気通貫で建設、設置する流れは効率の面で今後主流になる可能性が高いことから、これからグリーン水素に新規参入、あるいは事業拡大予定の企業にとってはプロジェクト計画時に留意すべきポイントとなるだろう。

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