「水素社会」の普及・実現に向けた動きが加速する中、企業は今後どのような戦略を取るべきなのか。その示唆となる国内外の情報をお届けする本連載、第2回となる今回は主要国の水素ビジネスの状況や戦略の方向性を紹介し、日本企業の事業機会を考察する。
各国の水素ビジネス関連動向を把握したい企業のニーズに対し、水素ビジネスのグローバルでの動向、諸外国の先進事例や日本でのビジネス状況、実装課題などを紹介し、他国から得られる示唆を全3回にわたり解説する本連載。
前回の第1回は、エネルギー戦略における各国の水素の位置付け、役割と将来動向を解説した。第2回の今回は世界の主要国/地域である欧州、米国の国家(マクロ)レベルでの水素ビジネスの状況、およびベンチマークとなり得る企業(ミクロ)レベルでのビジネスモデルや戦略の方向性を紹介し、日本企業の事業機会を考察したい。
EUは、2030年時点の石油化学産業などでの水素需要見込みを2,000万トンとし、その供給源として域内製造1,000万トン、域外からの輸入1,000万トンにする計画を立てている。日本における2030年時点の水素市場は300万トン見込みのため、EUの市場の大きさは日本の約7倍と、そのマーケットの巨大さがわかる。それだけの規模の水素をどのように市場に供給するのかを見てみたい。
2030年までに水素使用量を2,000万トンにする目標を達成するために不可欠な水素インフラについては、水素パイプラインを整備する欧州水素バックボーン計画が発表されている(図1)。
これは、天然ガスのパイプライン網が発達している欧州ならではの計画で、既存パイプラインへの水素の混入、水素専用パイプラインへの転用やパイプラインの拡張などを行うものである。具体的には、2030年までに28,000km、さらに2040年までに53,000kmのパイプラインを敷設する計画で、2040年までの想定投資額は800〜1,430億ユーロとなっている。
当然、EU各国は協調しながらこの巨大なインフラ整備計画を実行することになるが、ここに日本企業の事業機会があると筆者は考える。つまり、パイプラインの主な素材である炭素鋼を製作する製鉄メーカー、その他長距離パイプラインに必要な資材を製作するメーカーや工事施工会社に対する引き合いが増えると予想されるため、日本企業もここが狙える算段だ。
現地ガス会社が中心となり実行されるEHBは、日本企業にとっては、「1.海外売上高を拡大できる」「2.脱炭素に貢献する事業比率を高めることができる」「3.海外事業の名刺代わりになる」などのメリットが考えられ、それらを享受することができれば、企業価値の向上に大きく寄与するだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.