このように揚水発電による需給調整市場応札量が大きく減少した理由としては、2024年4月以降、揚水発電の運用主体が、一般送配電事業者(一送)から調整力提供者(BG)に変更されたことが挙げられる。
2023年度に電源I契約があった揚水機について、2024年4月の発電実績を確認したところ、夕方の高需要に向けて発電量を増やす傾向があり、揚水機がスポット市場価格の安値の時間帯にポンプアップし、市場価格が高値の時間帯に売電する「値差取引」を行っていると考えられる。このような揚水機による卸電力市場における値差取引は、ピーク時間帯の電力需給緩和及びスポット価格(kWh価格)の抑制に貢献するという点では、評価すべきと考えられる。
他方、調整力供出の観点では、一次・二次①は電源をあらかじめ並列しておくことが要件として課せられているため、上池容量に限りがあり、最低出力が50%程度と高い揚水機にとって応札が難しいとされる。また、BGがポンプアップ原資を準備した上で、需給調整市場に一部時間帯のみを調整力として切り出して供出することは、運用上の難しさがあることも指摘されている。
揚水機による需給調整市場応札量が少ないことは、需給調整市場全体に大きな影響を与えていることから、対応策として、⼀定量の揚水機を一定期間、⼀般送配電事業者が借り上げて運用する「公募調達」の実施が提案されている。
ただし、このような公募調達を行うとしても、リクワイアメントと利益のバランス次第では、揚水機が公募調達には応札しない可能性もある。このとき、揚水機を調達すること自体が目的ではないため、火力や蓄電池・DR等を公募対象とすることも合理的である。今後、応札インセンティブを確保しつつも適切な価格規律が働く公募調達について検討を深める予定としている。
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