現在、需給調整市場における支配的事業者に対しては、ガイドラインにより一定の価格規律が設けられている。現行ルールが需給調整市場応札不足の一因であるとの指摘を受け、発電事業者に対するインセンティブ及び価格規律の見直しの必要性について検討が行われている。
発電事業者からの指摘の一つが電源起動費の回収に関するルールであり、現行ルールでは、応札する全ブロックの応札価格に起動費用を上乗せすることは認められておらず、関係する応札ブロックのうち最大2ブロックに上乗せすることとしている。
このとき、応札ブロックのうち一部のブロックのみが約定(⻭抜け約定)すると、調整力提供者(発電事業者)は、起動費を回収し損ねることとなるため、応札量を2ブロックに限定することや、追加起動を伴うΔkW応札は行わないことを招き、これが応札不足の一因と考えられる。
ただし、現行ルールでは、取り漏れた起動費を先々での取引(基本的に年度内)において上乗せすることが認められている。1応札ごとに起動費回収漏れリスクをゼロとする考え方は過度に保守的である可能性が高く、経済合理性の観点からも疑問が生じ得る。
また、需給調整市場でこれほど大きな約定量不足が発生しながらも安定供給には支障が生じていないのは、容量市場に基づく「余力活用契約」というバックアップの仕組みが設けられているためである。
ところが、バックアップであるはずの余力活用契約と比較して、需給調整市場へ応札(供出)する経済的インセンティブが低いという逆転現象が生じ得ることが、需給調整市場の応札不足の一因との指摘がある。
ただし、余力活用契約に基づき一送からの起動指令に係る電源の「持ち上げ」及び「持ち下げ」部分に対して支払われるマージン(kWh価格の10%)と、需給調整市場供出ΔkWに対する一定額(ΔkWあたり0.33円/30分)を比較すると、どちらが多くなるか(儲かるか)はケースバイケースである。
余力活用契約と比較して需給調整市場が収益性で勝る確実性を高めるためには、現行のΔkWあたり0.33円/30分を増額することや、逆に余力活用契約側のマージンを現行より引き下げることが考えられるが、いずれも慎重な検討が必要とされる。
本稿で紹介した「起動費回収漏れリスク回避」や「余力活用契約との経済性比較」は、それ自体は合理的であるとしても、結果として需給調整市場の大幅な応札不足や価格高騰を招く一因となっている。過度なリスク回避等は、意図せずとも「売り惜しみ」と同じ効果をもたらし得るため、監視等委員会では市場支配力の行使など応札行動の確認を進める予定としている。
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