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コラム
» 2004年06月07日 00時00分 公開

業績低迷の責任とスケープゴートe-biz経営学

組織において、業績が低迷した際には、トップはその責任をとって辞任する、というのがあたかも常識のように考えられているが、実は、そうでもない、という研究について検証する。

[三橋平,筑波大学]

 最近よく耳にする言葉の1つとして、「責任」という言葉があげられます。イラクに入国した責任から始まり、年金未払いの責任、リコールを隠した責任へと続き、そして、大きな損失を計上した責任をとって大手銀行の経営陣が退任、という出来事もありました。

 我々はなんとなく分ったつもりで責任という言葉を日常的に使っていますが、例えば、日本人の責任に対する考え方は世界とどのように異なるのか、日本固有の責任の取り方があるとすればそれはどのようなメカニズムから発生しているのか、など、責任の本質に纏わる謎はまだまだ沢山あるように思います。企業組織においても、業績が低迷した際には、トップはその責任をとって辞任する、というのがあたかも常識のように考えられていますが、実は、そうでもない、という、2つの研究を今回のe-biz経営学では紹介したいと思います。

 1つ目に紹介する、責任と業績の低迷に直面する社長の行動パターンについての研究は、self-serving attribution(日本語では、セルフ・サービング・バイアスと紹介されているケースもあるようです)に関するものです。このself-serving attributionとは、人間がある現象の原因を求めていくプロセスにおいて、自分にとってより都合のよい帰属を行う傾向があることを意味しています。より具体的には、自分に関する成功は自分の内的要因にその原因を求め、一方、失敗は環境や外的な要因にその原因を求めていく傾向をさします。

 試験の出来が悪かった時は、「隣の人がいびきをかいていてうるさくて、試験に集中できなかった」、とか、「先生の問題文の日本語がおかしくて、問題をよく理解できなかった」と、試験の結果の原因を外的なものに求めていく一方で、試験の出来が良かった時には、「自分の努力のたまものだ」や「自分には才能がある」と、たまたま勉強したところが出題された運の良さを棚にあげて、「ウッシシ」と笑んだ経験は、きっと誰にでもあると思います。

 このself-serving attributionの傾向は、組織の様々なシーンでも確認されており、特に今回のテーマと関連するものとしては、Staw et al. (1983)の研究があげられます。Stawらの研究では、企業の業績が落ち込み始めたからといって、必ずしも、経営陣はその責任をとり、辞任するわけではなく、企業業績の低下を外的環境の要因にその原因を求めることで、経営陣は生き残りを図ろうとする傾向があることが発見されました。

 このような責任回避の姿勢は、有価証券報告書における業績報告のセクションで確認できます。通常、このセクションでは、まず外的な経済要因や市場環境の概観から始まり、次に内的な経営努力と立案された経営戦略がどのように業績に影響を与えたのかについての分析が行われます。業績が低迷している企業においては、外的な要因についての解説に非常に大きな比重がおかれ、高業績企業の場合には、自社の経営戦略がいかに他社よりも優れていたかが延々と語られます。

 このような傾向が起きるのは、業績の低迷を、アンコントローラブルな経営環境にその原因を求めることで釈明を行い、経営陣が自らの正当性を主張し、それを通じてトップ・マネージャーとしての地位の延命を図ろうとするためです。したがって、業績低迷の責任を回避することで、トップがその地位に居座り続けることが可能となるものです。

 2つ目の研究として、Boeker(1992)によるスケープゴートに関する研究を紹介したいと思います。この研究では、たとえ業績が低迷して、トップがその責任を問われたとしても、トップは他の経営陣の人に責任を押し付け、身代わりとしてクビにすることで、その難をすり抜けられることが明らかになりました。そして、このスケープゴートの傾向は、特に社長が非常に強力なパワーを持っているときに強くなることが発見されています。業績の低迷を誰か他の人に押し付け、身代わりを作ることで、株主や銀行からの自分の経営手腕やリーダーシップに対する懸念を払拭し、自らの地位の正当化を図ろうとするのです。

 これら2つの研究から明らかなことは、業績の低迷は必ずしもトップ交代の引き金になるものではなく、経営危機に直面したトップは辞めなくても助かる可能性がある、ということでしょう。自分の社長としての地位が脅かされるのは、本当に自分に経営能力があるのかだけではなく、周囲のステークホルダーに対して、自らの地位の妥当性を立証できなかったときに起こるものだとも考えられます。

 これらの業績と責任、トップ交代に関する研究は、まだまだ未開なエリアが多いように思われます。例えば、スケープゴートに有効な相手とは、ファイナンス担当の人間なのか、営業担当の人間なのか、一体誰を追い出せば、自らの地位の安定が図れるのでしょうか。これが分れば、経営危機に直面し、自らの地位が危ぶまれている社長の方々に、より有効なソリューションを提供できます。

 さらに、スケープゴートを行った結果についても分らないことばかりです。スケープゴートを行った結果、社長はどの程度延命できるのか、そして、短期的、長期的にみて、スケープゴートが行われた会社の業績はどのように推移していくのか。スケープゴートが行われると、直感的にはその後の業績も引き続き低迷すると考えられますが、本当にそうなのでしょうか。興味を持たれた方、一緒に研究しませんか。(連絡はこちらのフォームをご利用ください)

Staw、 B. M.、 McKechnie、 P. I.、 & Puffer、 S. M. 1983. The Justification of Organizational Performance. Administrative Science Quarterly、 28: 582-600.

 

Boeker、 W. 1992. Power and managerial dismissal: Scapegoating at the top. Administrative Science Quarterly、 37: 400-421.

 

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