Appleの人たちは、デスクトップPCは急速に衰退している分野だというメモを読まなかったのだろうか?
2度うわさになった新型Mac――iMac、Mac mini、Mac Pro――は、ちょうどデスクトップPC売り上げが崩壊し、企業も消費者もクレジットカード購入を控えているさなかに登場した。
Appleはいずれはデスクトップラインを刷新しなければならなかったし、その上この経済情勢では発表にふさわしい時期などあるわけもなく、3月3日に発表してもほかの日にしても同じだ。ともかく、最初に発表内容を見たときに驚いたのはAppleの価格戦略だった。今日はAppleファンのブログやニュースサイトは値下げの話で持ちきりだろう。24インチのiMacが今や、旧モデルより300ドル安い1499ドルだ。Mac Proのエントリーモデルも300ドル安くなった。
一大事だ。これはAppleの標準的な価格戦略だ――エントリーレベル製品の価格を下げずに、高価格帯の製品の機能を増やして価格を下げる。この戦略は利益率を維持し、売り上げに貢献してきた。景気後退に対応した価格戦略の変更はない。今のままの価格設定は最適なアプローチなのだろうか?
上の段落を書いている間、ウェイロン・ジェニングスの曲が頭の中でぐるぐると回っていた。「見当違いの場所で愛を探す」という歌詞だ。カントリーミュージックは嫌いだが、この場合はたぶんウェイロンがぴったりだろう。彼はAppleに向けて歌っているのかもしれない。
Appleは見当違いの場所で売り上げを探しているのだろうか? 1199ドルのiMacエントリーモデルを300ドル値下げするべきだったのだろうか? NPDによると、1月のMacの平均販売価格は1488ドル、Windows PCは586ドルだった。これはエントリーレベルMacの値下げを検討する理由にならないのだろうか? ここで皆さんは、わたしが「そう、AppleはエントリーレベルMacの価格を下げるべきだ」と書くと思っただろう。だがそうはならない。
わたしは昨日、Appleに799ドルのiMacを販売するべきだと提案した。この案は撤回する。Appleの価格戦略がうまくいくかもしれないという奇妙で複雑な理由があるのだ。それはこうだ。
こう来るとは皆さんも予想していなかっただろう。わたしも、最初に新型Macを見たときにはこうは思っていなかった。その理由を説明しよう。
Gartnerは、世界のデスクトップPC出荷台数は今年31.9%減少し、ノートPC(ミニノートPCも含む)は9%増えると予測している。デスクトップは斜陽分野だ。理論上は、AppleはWindows PCに対抗してシェアを拡大するために値下げをするべきだ。だがわたしは、これまでプレミアム価格がついていたブランド――iMacとMac Pro――では価格を維持する方がAppleのリスクは少ないと思っている。
1年前なら、デスクトップMacの値下げは理にかなっていただろう。市場の競争は今よりも激しく、小規模企業はまだお金を使っていた。今は、デスクトップPCの売り上げは崩壊状態だ。デスクトップを購入する企業や消費者が減るという前提に立つと、Appleは利益率を維持した方がいい。デスクトップPC売り上げが大幅に減るのなら、1台当たりの利益率を高くする戦略の方が健全だ。言い換えれば、皆が購入しているときなら値下げは理にかなう。市場の競争が活発だからだ。ほとんどの人が購入していないときは、値下げをして利益率を下げるのは理に合わない。つまり、値下げをしても、利益率を下げることを正当化できるほど売り上げは増えないということだ(この段落ではあえて同じことを何度も言っている)。
Appleは1000ドル以上の米小売りPCの市場で圧倒的優位に立っている。アナリストやApple観測筋はMacとWindows PCを比べているが、おそらくApple幹部は市場をそのようには見ていないだろう。1000ドル以上の価格帯では、Macの主なライバルはMacだ。
Appleはこれまで得てきたものを維持し、それを拡大したいと考えている。24インチiMacの値下げは、1500ドル前後の価格帯で新たな売り上げの機会を切り開くはずだ。こうした価格設定はカテゴリーのバックエンドを広げる。昨日1799ドルだったものが今日は1499ドルで、しかもグラフィックス機能が向上し、ストレージが増えている。支出が最も少ないのは、低価格Windows PCを購入する消費者層だろう。Appleが獲得したいのは、1500ドルなら出せるが、1800ドルでは高過ぎると思う購入者だ。1200ドル前後では、高速化してグラフィックスとストレージを強化したアップデート版の20インチiMacがある。それに引かれるユーザーもいるだろうが、1499ドル出せるユーザーにとっては、24インチモデルの方が魅力的だ。
ところで、1000ドル以上の小売りノートPCにおけるAppleの市場シェアは、1月の時点で80%だった(NPD調べ)。この不景気の中でも、1000ドル以上の価格帯でこれだけのシェアがあり、しかもノートPCはいまだに成長分野だ。AppleはMacBookとMacBook Proの価格を維持するべきだ。売り上げも利幅もまだたっぷりあるのだから。
新型Mac miniがなかったら、わたしがAppleのデスクトップマシンの価格設定をこれほど熱心に語ることはなかっただろう。今もなお、1000ドル未満なら進んでWindowsから乗り替えるというユーザーの巨大な市場は存在する。以前に価格比較を行ったとき、わたしは単にMac miniを無視していた。安価なWindows PCの代替としては不十分だったのだ。新モデルはWindows PCと比べて多少構成は良いが、まだ価格は高い。価格構成に関しては、599ドルと799ドルよりは499ドルと699ドルの方がいい。Appleは2005年1月に499ドルと599ドルでMac miniを投入した。今の経済情勢を考えると、最初の価格設定の方が好ましい。
もっと重要なのは、価格設定や構成ではなくマーケティングだ。新型Mac miniはAppleの「グリーン」コンピューティングマーケティングに合っているし、広告も出るだろう。Appleは何年もの間、Mac miniの宣伝をあまりしてこなかった。Macへの乗り替えを考えているが、999ドル(白いMacBook)あるいは1199ドル(20インチiMac)は出したくない、あるいは出せないという人にとって、Mac miniはこれまでよりもずっと魅力的な代替選択肢となっている。Mac miniはAppleストアで非常に目立たないところにあった。これからはもっと宣伝してもらえるはずだ。それが、今回の新モデルに興奮している最大の理由だ。
最初の段落で挙げた疑問の答えはこうだ。もしもApple幹部がそのメモを読んだのだとしたら、彼らはそれを信じなかったのだろう。今回の価格戦略の裏には理論的な根拠がある。昔のアプローチとは違う根拠が。Appleは利益率の維持を選ぶ代わりに、価格設定を経済危機に適応させた。Mac miniを除いては、理にかなう価格戦略のようにわたしには思える。AppleはMac miniに多くを求め過ぎているが、iMacとMac Proではそうではない。
それでもAppleは、崩壊しているデスクトップ売り上げがさらに減るという大きなリスクを負っている。1000ドル以上――実際1200ドル以上――を新しいコンピュータに払えるし、進んで払う人はまだたくさんいる。アナリストに聞いてみれば、そうした消費者や小規模企業の多くはAppleのターゲット層にぴったりはまると言われるだろう。だが経済は変動が激しい。皆が投資したお金を失っている。あらゆる経済分野でレイオフが行われている。住宅価格はローンの額を下回っている。クレジットカードの利率は上昇している。経済情勢が悪化すれば、干上がっている高額なコンピュータへの支出はさらに減るかもしれない。
さて、ここでちょっとおかしな言葉で締めくくらせてもらうことにする。Appleの価格戦略はデスクトップPC需要がもっと高かったら、あるいは景気がもっと良かったらそれほど理にかなったものではない。Appleが市場シェアを拡大したがっているのであれば、市場の競争がもっと活発なら、エントリーモデルを値下げする方がいい作戦だ。さらに、MacがVistaではなくWindows 7マシンと競争するのなら、Appleのリスクは大きくなる。Windows 7はWindows PC売り上げを伸ばし、iMacとぶつかるハイエンドエディションも登場するだろう。
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