「私にはできません」の一辺倒ではなく、「私ならできます」と言える人になろう。
本連載は、斎藤茂太著、書籍『あせらない練習』(アスコム)から一部抜粋、編集しています。
休みなしに働いているわりには成果が上がらなかったり、あれもこれもと欲張ってやるわりには何もモノにできなかったり――。周囲に振り回されて自分自身を見失っている人、あなたの周りにもいませんか? そういう人の心の中には、いろいろな情報や思いがグチャグチャとあるだけなのかもしれません。
・頭のなかのあせりは、脳を休ませるとだんだん消えていく
・「その場しのぎ」をやめれば、あせる気持ちから解放される
不安やイライラは、ちょっとした心の練習でなくなります。あせらないで頭と心さえスッキリさせれば、筋道の通った思考と気持ちの整理もきちんとでき、目的別にゆったりと行動することができるようになります。
本書では、どうしてもあせってしまいがちな人の頭と心をスッキリさせる練習方法を、心の名医であるモタ先生の幸せメソッドにならって紹介します。
何か新しい挑戦や難しい仕事を前にすると、とたんに臆病の虫が騒ぎ出し、
「どうせ自分にはできない」
と思い込んでしまう人がいます。これは私に言わせれば、非常にもったいないこと。自分の可能性を自ら摘み取っているようなものだと思います。
自分に自信がないばかりに消極的になってしまうのでしょうが、自信というのは行動によって積み上げていくもの。未知のことや困難に尻込みしていると、ますます自信を失くすだけ。あせって逃げ回っては、
「どうせ自分はダメ人間だから」
と頭を抱える行動に終始せざるをえません。
ダメ人間だっていいじゃないですか。それを素直に受け入れたうえで、こう考えてはどうでしょう?
「もしかしたら自分にもできるかもしれない」と。
「どうせできない」と「もしかしたらできるかもしれない」とでは、心持ちに雲泥の差があります。その仕事に対して自分が力不足である点は変わらないものの、前者は後ろを向いて逃げるしかありませんが、後者は前に向かって進んでいけます。これは大きな差ではありませんか?
そもそも何だって、やってみなければ結果がどうなるかは分かりません。私の知り合いの男性は、自分のいまの力では手に余る仕事だと思っても、とにかく、「やらせてください!」と、即断即決で引き受けるそうです。すると、
「やる以上はいい結果を出したい」
という気持ちが芽生え、「自分にはできっこないよ」というあせりと思い込みが消えていくと言います。
「いまでは、例えば『君には経験がないから無理かなぁ』と言われた仕事でも、『経験はこれから作ります』と食い下がるほどです。そういう熱意を見せると、たいていの場合、上司も『なら、やってみるか』とチャンスをくれます。
それに、絶対に自分にできない仕事が自分に与えられるはずはないでしょう? 自分で勝手に『できない』と断じるのは早計です。やってみて結果が思わしくなくても、以前の自分より少しは成長します。自分にもできるというレベルがちょっとだけ上がって、それが小さな自信にもなります。『僕にはできません』と挑戦せずに逃げていても、ダメな自分はいつまでもダメな自分のままです。損ですよ」
かく言う彼も、以前は「どうせ」思考の強い男だったとか。あるとき意を決して、何も考えずに「やらせてください!」と即答することを自分に課し、そこから少しずつ自信をつけていったのだそうです。
「どうせ自分は」ではなく、「もしかしたら自分にも」という思考へ。この発想の転換が、自信がなくあせってばかりの自分に自信をつけていく特効薬なのです。
(次回は、「自分をランク付けしない」について)
斎藤茂太(さいとう・しげた)
1916(大正5)年に歌人・斎藤茂吉の長男として東京に生まれる。医学博士であり、斎藤病院名誉院長、日本ペンクラブ理事、日本旅行作家協会会長などの役職を歴任。多くの著書を執筆し、「モタさん」の愛称で親しまれる。「心の名医」として悩める人々に勇気を与え続け、そのユーモアあふれる温かいアドバイスには定評があった。2006(平成18)年に90歳で亡くなったが、没後も著作は多くの人々に読み継がれている。
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