もう一つ、業務ソフトの市場で注目される製品を見てみよう。
これまでSOHO〜小規模企業をターゲットとしたスタンドアロン版に注力してきた弥生は、2005年12月に「弥生会計NE 06」、06年3月に「弥生販売NE 06」と、2種類のLAN対応版を新たに発売した。
「これまでの弥生シリーズが、おおむね30名以下の事業所をターゲットとしていたのに対し、弥生NEでは最大300名くらいの中規模事業所を対象としています」と、弥生 営業本部 営業部 部長の権田博亮氏が言うように、これまでの弥生製品とはターゲット層が異なり、案件あたりの金額も桁違いだ。当然、販売方法も変わってくる。
「8万4000円の弥生会計プロフェッショナルなら、導入コストを極力抑えるためにパッケージのまま使っていただくのが一番だと思っています。しかし、弥生NEを導入する際には、大きければ300万円くらいの案件になる可能性もあります。この規模になると、やはりカスタマイズを行うケースが増えてきますね」(権田氏)
弥生NEの導入には、サーバなどのハードウェア費用や、導入サービス費用がつきものだ。スタンドアロン版のパッケージソフトならそういった付帯費用は不要だったから、量販店の店頭に箱を並べて販売できた。しかし今度の弥生NEは手を動かしてくれる販社が欠かせない。
もちろん、そういった付帯費用が「パートナーのビジネスチャンス」(権田氏)になると考えているのは他社と同じだ。弥生は、まず以前から付き合いのあるビジネスパートナーへの支援策を展開している。
「スキルアップのための教育に力を入れつつあります。そして、カスタマイズを容易にするため、パートナー向けの開発ツールキットを用意しているところです」と権田氏は説明する。
後発という不利はある。市場には「スタンドアロン版の弥生」というイメージがあり、それを払拭すべくさまざまなプロモーション手法を試しているという。弥生はなぜ、この困難なLAN対応版に取り組んだのか。
「弥生シリーズは、多くのユーザーから使い勝手を高く評価していただいています。しかし、そのユーザーが事業を拡大していくと、いつか弥生から離れざるを得ない時が来てしまいます」と権田氏は言う。たしかに、市場の将来性で言えばスタンドアロン版よりLAN対応版だ。使い勝手で気に入ってくれている顧客がいるのだから勝ち目もある、という判断なのだろう。
「弥生シリーズの使い勝手は弥生NEもそのまま引き継いでいますから、現場の方が実際の製品に触って評価検討を行うなら、我々としても自信があります。今使っている他社製品に不満をお持ちのユーザーは少なくないようです。そういったユーザーは、タイミング良く提案すれば、乗り換えてくれる可能性が高いでしょう」(権田氏)
乗り換えが期待できるのは、どんなタイミングか。乗り換えないまでもバージョンアップが必要になるのは法令や制度の改正があったり、OSが変わるといった時期だ。
改めて弥生NEの発売時期を考えると、06年5月の“新会社法”施行にはギリギリだった。検討やシステム構築に要する期間を考えれば、むしろ間に合わなかった可能性もある。
しかしWindows Vistaの登場には余裕を持って間に合う。オフコンエンジニアの大量退職が始まるという2007年問題も迫っているから、これまでずっとオフコンを使い続けてきた企業も、さすがにそろそろオープン系の業務アプリケーションへの移行を考えるかもしれない。金融商品取引法の施行も迫る。中小規模企業は直接の影響を受けないが、同法の対象となる大企業と取引があれば無縁では済まされない。
このように列挙すれば分かってくるだろうか。業務アプリケーションベンダーにとって、乗り換え需要を狙えるチャンスというのは、今後もずっと続くのである。ベンダーの競争も、やはり変わらず続いていくことだろう。
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