寺島実郎が明かす「21世紀に“必ず”ヒットするビジネスモデル」Movie&Photo Report

「極端なマネーゲームが世界を覆い尽くしている」と金融経済と実体経済のかい離を指摘する寺島実郎氏。その原因は何だったのか。そして、これからの時代、何を考慮したビジネスモデルが求められるのかを明かした。

» 2007年06月28日 00時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「世間で開催されるIT関連イベントの多くは、はやりの言葉で目くらまししているに過ぎない。恫喝のシナリオだと言ってもいいだろう」――先日開催された「日本SGIソリューション・キュービック・フォーラム2008」で、多くの聴衆に向かって講演を行った三井物産戦略研究所所長で三井物産常務執行役員の寺島実郎氏はこのように述べ、21世紀に入ってITが果たした役割の真実と、今後の展望を超マクロの観点から語った。

 「(日本SGI代表取締役社長CEOの)和泉氏との深い友情によりここに立っている」と寺島氏。同氏は日本SGIのアドバイザリーコミッティにも名を連ね、その優れた見識を基に和泉氏に提言する立場にある。今回のイベントをさかのぼること2年半前、同社が開催した「日本SGI ブロードバンド・ユビキタス・ソリューション 2004」においても、世界潮流とIT革命の総括をテーマに講演を行っている(関連記事参照)

寺島実郎氏 寺島実郎氏。「コンテンツは知財権化、信託化が進むだろう」とも

ITとFTの結婚がもたらしたもの

 「21世紀に入ってからの6年間、グローバルで見たGDPの実質成長率は3.5%、一方、世界貿易、つまり物流の実質成長率は先の数字の2倍となる7%。さらに、世界の株価の時価総額は14%の成長を遂げた」と寺島氏。経済発展が著しいブラジル、ロシア、インド、中国の頭文字を合わせた「BRICs」、そこに南アフリカ(South Africa)を加えた「BRICS」、さらにインドネシア(Indonesia)を加えた「BRIICS」、はたまたBRICsに続くグループとして提唱されている「VISTA」(ベトナム、インドネシア、南アフリカ共和国、トルコ、アルゼンチン)など、実体経済の成長のすそ野が拡大していることを説明する。

 そうした実体経済の成長があれば、物流も成長を遂げるのは自明だが、世界貿易の約半分は、IT関連機材の貿易である点を指摘、ITが世界経済に大きな影響を与えていることをデータで示した。

 しかし、金融経済が実体経済をはるかに上回る4倍となっているこの現状をどう理解すればいいのか。寺島氏は、「極端なマネーゲームが世界を覆い尽くしている」とし、実需給の関係で価格が決まらなくなっている世情を「大学の経済学部の生徒が聞いたら卒倒してしまう」と皮肉った。

 そうした背景にあるのは、世界物流の半数を占めるITにも大きく責任を負うところがあると寺島氏。「ITとFT(フィナンシャルテクノロジー)の結婚といってもいい状態」と、マネーゲームの要素が多く含まれた一部のITビジネスの動向について警告した。

 「ITバブルのころ、わたしのところへ相談にくるベンチャーの99%はインチキだった。IPOゲームのレベルでしか議論しない。そうしたやからとITの未来を真剣に探求している企業とは厳しく一線を画すべき」と述べ、自社に技術を蓄積せず、バーチャルな世界でマネーゲームさながらにビジネスを展開する企業を厳しく断罪した。

そもそもIT革命とは何だったのか

 次に、「そもそもIT革命とは何だったのか?」というテーマに触れた同氏。「2001年宇宙の旅」など、かつてのSF小説が未来を語る際、必ずプロットに盛り込まれるものに「人工知能の完成」が挙げられる。しかし、2001年からもう6年、同映画で出てきたHAL 9000型コンピュータのごときものは現実には誕生していない。これを寺島氏はITが目指す方向がネットワーク情報技術革命へとシフトしたことによるものであると話す。

 それはもちろん、今日のインターネットがその好例であるが、そもそもこれらの出自をひもとけば、アメリカ国防総省の高等研究計画局(ARPA)が開発したARPANETに由来するものである。いわば、IT革命、つまり、ネットワーク情報技術革命へのシフトは、「アメリカが主導した軍事技術のパラダイムシフト」にほかならない。この10年で、ネコも杓子もインターネットに触れるようになったが、そこには当然、光と影が存在することを忘れてはならないとした。

 こうした背景はありながらも、現実としてITはわたしたちの生活をどう変えたかについて、好例としてコンビニエンスストアと携帯電話を挙げた。もともと米国発祥のコンビニエンスストアである「セブンイレブン」が日本国内で展開して大きく変化したのは、POSシステムの導入などで「腐るものを流通に乗せた」(寺島氏)こと。これこそ、ネットワーク情報技術革命による流通効率性の改善がなければなし得なかったものである。一方の携帯電話も、日本では一人一台の様相を呈すなど、ネットワーク情報技術革命がごく当たり前のように浸透した現状について述べた。

次のキーワードは「移動」

 こうした流れをふまえ、21世紀の潮流として、アジア大移動時代というキーワードを挙げる同氏。そこでは、「移動」をテコにしたビジネスモデルを考える必要があると説く。

 「昨年、中国から旅行などで海外に出たのは3452万人、香港からは1359万人。一方、日本は1700万人程度で、そのうち米国に向かったのは360万人ほど」と、アジア圏で人的移動のベクトルが大きく変わっていることを指摘する。さらに、日本の対外貿易において、対中貿易(中国本土単体)が対米貿易を追い抜いていることを挙げ、ビジネスの流れが完全に変わりつつある今、アジアでの都市間移動を見込んだ活性化を図る必要があるとする。

 さらに、2046年までに日本の人口は現在と比べ2800万人減る予測を持ち出し、国内でも移動人口による活性化、例えば都市・農山漁村間の二地域居住などに注目すべきであると話した。

 「人が動けば動くほど、それを支えるITが求められる。今後は、国際・国内の移動プラットフォームに備えた“やわらかい”ITシステムが求められる」

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