コラム
» 2009年08月15日 11時30分 UPDATE

個人の意欲が創造性の源:夏休みには思考エンジンのメンテナンスを

景気のよくない時の夏休みこそ、ビジネスの目的をじっくり考えるチャンス。自分を突き動かす、自分だけの思考エンジンの燃料を、この機会に探してみよう。

[堀内浩二,ITmedia]

 全般的に景気のよくない中、この夏休みは「売り上げ回復のアイデアを探そう」「新規事業のネタを仕入れよう」といった宿題を自らに課している人もいらっしゃるでしょう。今回はそういったマネジャーの皆さんのために、新しい発想を得るためのヒントを整理してお届けします。

手段ではなく目的

 まずは、ソフィアバンク代表の田坂広志氏のこの言葉から。

創造的発想の技法において、我々が心に刻んでおくべき言葉がある。


「橋のデザイン」を考えるな。

「河の渡り方」を考えよ。


― 田坂 広志 『目に見えない資本主義』(東洋経済新報社、2009年)

 マーケティングの本などで「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく穴である」という、元ハーバードビジネススクール教授の故セオドア・レビット氏の例え話を読まれた方も少なくないでしょう。要するに「手段でなく、目的を考えよ」ということですね。

 日々の仕事では、とかく具体的なアクションプラン(つまり手段)を求められがちです。しかし夏休みは、落ち着いて本来の目的を考えてみる最良の機会です。

 とはいえ、手段と目的の関係をじっくり考えるのは意外に難しいものです。そこで、冒頭に挙げた「売り上げ回復のアイデアを探そう」という命題をさかなに、少し丁寧に考えてみましょう。

 「売り上げ回復」という文脈で引用文を翻訳すれば、こうなります。

「売り上げ回復」を考えるな。「顧客からの支持回復」を考えよ。

「商品の売り方」を考えるな。「顧客の買い方」を考えよ。

 ただし、現下の経済環境では、多くの企業が調査に掛けるコストを削っています(だからこそ、いま顧客を知るために資源を投入することが差別化のための有効な投資となり得るのですが、その話はここでは置いておきます)。

 ムダ弾を打たないために必要なのは、よい仮説です。よい仮説を立てるために必要なのは、社会に対する見通しです。自分なりの見通しを持つために、引用した田坂氏の本の考え方を取り入れるのは好適です。

組織ではなく個人

 新しい打ち手の発想には、もう1つ重要なポイントがあります。

仕事で「創造的な選択」をめざすならば、

その仕事に個人的な意義を見出す必要がある

― 堀内 浩二 『クリエイティブ・チョイス』(日本実業出版社、2009年)

 詳しい理由づけは本に譲りますが、われわれの経験に照らしてみても、個人的な意欲が創造性に強い影響を及ぼすのは明らかでしょう。「何か新しい発想を考えておくように」と言われて、イヤイヤながら発想を出せる人は、まずいません。

 では個人的な意義や目的意識を見いだすには、どうすればよいか。上記の本から、エクササイズを1つ紹介します。さきほど手段の目的を考えましたが、その目的をさらにさかのぼって考えてみます。

 (以下は一例であって「正解」ではありません)

 なぜ、売り上げ回復が必要なのか?

← 利益を出したいから


 なぜ、利益を出したいのか?

← この事業部に存続してほしいから


 なぜ、この事業部に存続してほしいのか?

← この事業で社会に貢献するのが会社の理念だから


 こういった問答は徐々に観念的になってきます。「合理的な」目的が出尽くした後、さらに率直に考えていくと、答えは自然と個人的な価値観、目的意識、不安といった動機に移っています。例えば次のようなことです。

← この事業には存在意義があると個人的にも信じているから

← 自分の事業運営の手腕を証明したいから

← いま最高のチームで働けて充実しているから

← 失業したくないから

← 3年前の転職の決断が間違いだったことになるみたいでイヤだから


 こんな個人的な目的を明らかにしたところで、本当に売り上げ回復のアイデア出しにつながるのかと不思議に思うかもしれません。しかし、売り上げ回復のアイデア出しを夏休みの宿題に課しているほどの人であれば、すでにひと通りのアイデア出しのプロセスは踏まれているはず。必要なのはもう一段高い目的意識であり、もう一段深い洞察です。そこに達するには、それだけのエネルギーを燃やして考え続けるべき理由を持たなければなりません。その理由は「経営企画部にせっつかれているから」というような薄っぺらいものではあり得ません。

 個人的な目的は、利己的だと思われないか、あまりにも高尚で青臭く思われないかといった理由で、他人と共有しづらいものも混じっています。そういった意味でも、夏休みに考えるテーマとしてはちょうどよいと思います。

思考エンジンの燃料を見付けよう

 新しい手段は、常に目的を見直すところから生まれます。いま取ろうとしている手段の目的は何か。その本当の目的は何か。本当の目的に照らして、その手段が最善か。引用した『クリエイティブ・チョイス』では、この思考を「目的と手段の往復運動」と呼んでいます。そして、この往復運動をねばり強く続ける燃料が、個人的な目的です。

 個人的な目的意識を追求することが、組織の目的にもかなっている。そのような状態の人は、思考エンジンの尽きない燃料を手に入れたも同然です。両者が100パーセント重なり合うことはまずありませんが、ゼロということもまずないでしょう。夏休みには、自分の思考エンジンの燃料を探してみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール:堀内浩二

 堀内浩二

株式会社アーキット代表。

「個が立つ社会」をキーワードに、個人の意志決定力を強化する研修・教育事業に注力している。外資系コンサルティング企業(現アクセンチュア)でシリコンバレー勤務を経験。

工学修士(早稲田大学理工学研究科)。グロービス・マネジメント・スクール講師などを兼任。著書に『「リスト化」仕事術』(『リストのチカラ』の文庫化/ゴマブックス)、『クリエイティブ・チョイス』(日本実業出版社、2009年)などがある。

ITmedia オルタナティブ・ブログ「発想七日!」で、日々の「ハッ、そうなのか!」な気付きをホンワカ執筆中。


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