SPARCで目指す10ペタFLOPS、富士通が取り組むスパコン高性能と高信頼を武器に

富士通は、同社のスーパーコンピュータに対する取り組みや次世代SPARCプロセッサ「SPARC64 VIIIfx」で実現する機能などを紹介した。

» 2009年08月25日 18時12分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 富士通は8月25日、スーパーコンピュータへの取り組みに関する記者説明会を開催した。理化学研究所と共同で進める10ペタFLOPS級の次世代システムの中核となるSPARCプロセッサ「SPARC64 VIIIfx」の特徴などを紹介した。

自動車開発における使用例

 富士通では現在、製品ラインアップとしてIAベースの汎用向けクラスタ型システムと、SPARCプロセッサを使用するハイエンド向けスカラ型システムの2つを展開する。開発は30年以上の歴史があり、これまで約400サイト1200システムを納入した。2009年度は理化学研究所、宇宙航空研究開発機構、名古屋大学、日本原子力開発機構の4サイトで新システムが稼働する予定となっている。

 テクニカルコンピューティングソリューション事業本部エグゼクティブアーキテクトの奥田基氏は、スーパーコンピュータの市場動向について、従来の政府・研究機関を中心とした利用シーンが産業界に広がっていると説明。同氏の予測ではサイトの約6割が産業界であり、医療やバイオ、工業、エネルギーなどの分野に拡大している。富士通でも、次世代の半導体材料として注目されるカーボンナノチューブの生成計算、LSIの設計、製品開発における電磁界解析や構造解析、流体解析などに使用しているという。

 富士通は7月、理化学研究所と共同で2012年度の稼働する予定の新システムにおいて、世界最速規模となる10ペタFLOPSの処理性能を目指すと表明した。

富士通での研究開発におけるケース

 奥田氏によれば、10ペタFLOPSの処理能力は1テラFLOPSのシステムで丸1日かかっていた処理時間を8.6秒に短縮する。富士通の運用に当てはめると、1日で処理できるのは1テラFLOPSのシステムで300原子から構成される回線1本程度だが、10ペタFLOPSは1万原子から構成されるトランジスタ全体を解析できる。「特にスカラ型であれば、緻密な計算や異なる計算の組み合わせ、複雑な計算、航空機全体のような大規模な計算に適している」と奥田氏は述べた。

 新システムの中核になるのが、自社開発するSPARCプロセッサの最新版「SPARC64 VIIIfx」。同プロセッサは1CPU当たり8コアを搭載し、45ナノメートルプロセスを採用する。理論性能は128GFLOPSと現時点では世界最速になるといい、処理の効率性向上と消費電力の削減を重点に開発された。

 開発責任者の常務兼次世代テクニカルコンピューティング開発本部長の井上愛一郎氏は、10ペタFLOPSを実現する上で、SPARC64 VIIIfxから搭載する3つの新技術と、前モデルのSPARC64 VIIに搭載した「Integrated Multi-core Parallel ArChiTecture」がカギになると話した。

 Integrated Multi-core Parallel ArChiTectureは、8つのコアを1つのCPUとして扱う仕組みで、コア間の同期処理をハードウェアで行う「ハードウェアバリア機構」や共有キャッシュ、コンパイラ技術を組み合わせることにより、ソフトウェアによる同期処理に比べて約10倍の高速化を実現する。

 SPARC64 VIIIfxに搭載する3つの新技術は、「SIMD(Single Instrution Multiple Data)」と「浮動小数点レジスタ拡張」、「セクターキャッシュ」というもの。SIMDは1つの命令で複数の並列処理を実現するもので、非連続のメモリ空間から効率的処理できるようにデータを取得して演算する。1CPU当たり64個の演算が可能になるという。

 浮動小数点レジスタ拡張は、従来は32個のレジスタを256個に拡張し、キャッシュへのアクセス頻度を削減することで処理の高速化を図った。セクターキャッシュは、キャッシュ領域を繰り返し使うデータ用と一時的に使うデータ用の2つに分けることでキャッシュミスを削減し、演算処理を高速化させている。

 このほかにも、SPARC64 VIIIfxではプロセッサ内の大部分が中性子の衝突などによって起きる計算エラーの検出と自己修復を可能にしており、冷却方式に水冷を採用したことで製品寿命の向上や低消費電力化を実現した。SPARC64 VIIIfxの消費電力は2002年当時と同レベルになっているという。

 井上氏によれば、10ペタFLOPSのシステムを実現するには広大な設置面積と、100Mワット近くにもなる膨大な消費電力、部品点数の増加に伴う故障率の高まりが課題になり、SPARC64 VIIIfxはこれらを解決することを目的にしているという。「高速処理を志向するスーパーコンピュータが多いが、われわれは使い勝手と両立させることが重要だと考えている。このような開発には多額のコストが伴うが、より良い社会の実現にスーパーコンピュータが大きな貢献を果たせるようにしていきたい」(同氏)

SPARC64 VIIIfxを手にする奥田氏(右)と井上氏

 国内のスーパーコンピュータ事業をめぐっては、米国やドイツのシステムが高性能ランキングの上位を占めるようになり、日本製システムの地位が低下していることや、理化学研究所のプロジェクトからNECと日立製作所が撤退するなど、厳しい見方が広がっている。

 奥田氏は、「欧米の開発投資ペースに日本が追いつけなかったことが大きな要因ではないか。われわれは今後も継続的にこの分野に投資していくが、コンピューティングリソースを提供するようなビジネスモデルが今後の成長に欠かせないだろう」と話した。

 井上氏は、「ハイエンドと汎用の2つのラインアップは、スーパーコンピュータが幅広い分野で活用されるために不可欠。ユーザーにとって最良の技術を今後も開発していく」と語った。

 なおSPARCプロセッサの開発について、米OracleによるSun Microsystemsの買収は影響しないと、5月に開催した富士通フォーラムで同社はコメントしている。

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