徹底したローコスト戦略を利益に結び付けるためのデータ活用法小売業の可能性を広げるBI

目測を誤れば一転して会社の屋台骨を揺るがす低価格の「定番商品」。郊外型総合スーパー97店舗を経営するトライアルカンパニーは、POSデータを迅速に分析する仕組みで、商機を逃さない経営を続けている。

» 2009年08月28日 13時29分 公開
[大西高弘,ITmedia]

何が勝負の分かれ目になるのか

 トライアルカンパニーはいわゆる「郊外型大型スーパー」のビジネスモデルを展開している。生鮮食品、加工食品、さらに日用雑貨や家電製品などを豊富な品ぞろえで提供し、顧客に「エブリデイ ロープライス」をスローガンに、徹底したローコスト運営を実施している。同社は物流も自社で行っており、そこで削減したコストをさらに安価な商品提供のために活用している。最近では、飲料の自社ブランドを立ち上げ、安価かつ品質の高い商品の提供を始めている。トライアルカンパニーは九州地域を起点に店舗を展開。現在では中国、近畿、首都圏エリア、東北、北海道に至る全国に、さらに韓国にも店舗展開を拡大し97店舗を運営している。

 海外を含めて90店舗以上のチェーンを持つスーパーであれば、当然「規模の経済」が働くようになる。仕入原価を大幅に抑えることで、競合店舗に差をつけていく。しかし、国内でも海外でも郊外型スーパーは競合相手がひしめいており、店舗立地や営業時間(トライアルカンパニーの店舗は24時間営業が多い)などの工夫も、さらには自社ブランド製品などの開発もやがては他社との決定的な差別化要因とはいえなくなってくる。

 郊外型のスーパーは、近隣住民だけでなく、自動車などの交通機関を使って訪れる顧客を取り込まなくてはならない。競争に勝つためにぎりぎりまで価格を抑えているので、自家用車を使ってでも「あの商品が欲しい」と来店してくれる顧客を大量に呼び込むことがビジネス成功の最低条件となる。そこで必要になるのはやはり圧倒的な低価格でしかも品質の良い「人気商品」「定番商品」だ。長持ちする人気商品を豊富にそろえている店舗が勝ち、その勝負はすぐについてしまう。そうした人気商品の多くはプライベートブランド(PB)と呼ばれる自社開発商品であることが多い。

 PB商品による競争は、今に始まったことではない。20年以上前にもそうした競争はあったし、現在も大手スーパーはPB商品を開発し続けている。小売業の世界では、どこもまねのできない手法を用いてライバルを駆逐することはほぼないといっていい。自社が取り組むことは、他社も必ずやっているか、いずれは始める。

 では、どんな違いが勝負の分かれ目になるのか。今回紹介するトライアルカンパニーのIT導入事例は、その秘密の一端を垣間見ることができる。

ちょっとした油断が命取りになる商品

 PB商品は、自社で開発、生産をするので徹底的なコスト管理ができ、しかも中間業者がいないので販売価格をより抑えることができる。トライアルカンパニーのPBの緑茶は2リットルサイズで、79円。同じくオリジナル開発のコーラは350ミリリットル1本が29円で販売されている。他にもこうした圧倒的な低価格商品は数種類あるが、問題となるのは、何をPB商品として開発し、大量生産するかという見極めと、「人気商品」の地位を維持し続けるためのさまざまな管理である。

 低価格で販売するPB商品は、大量生産でコストを抑えるので、逆に売れなければ大きな痛手となる。開発、生産した後、ただ各店舗に送り続けていればそれだけで利益が上がるわけではないのだ。もちろんこれはPB商品に限った話ではない。あらゆる商品について、常に商機を逃さないようにしていなければ、エブリデイ ロープライスという戦略は成功しない。

 ある店舗だけで売り上げが落ちているならば、その売り場での陳列方法など販売の仕方に問題がある可能性もある。さらには、そもそも店舗で欠品が発生していて、売り上げチャンスを逃しているのかもしれない。ある日の数時間の欠品が大きな痛手となって付きまとう可能性が出てくる。

「定番商品の売り上げを維持することは重要」と話す西川晋二氏

 「トライアルカンパニーのビジネスにおいても、いわゆるマーケティングの2:8の法則と同様な傾向があります。定番商品の売り上げが全体に占める割合は大きいです。そのため定番商品の売り上げを維持することは重要です」と語るのは、トライアルカンパニー 取締役 CIOの西川晋二氏である。

 低価格の定番商品の売り上げを確保し拡大するには、さまざまな角度から売上動向を分析し、何か気になる点があればすぐにドリルダウンを行って原因を追及することが必要だ。そのためには商品単品レベルでの売り上げ分析ができることが不可欠だった。そして、単品レベルでの分析を行う環境構築のために選ばれたのがMicroStrategyのBIツールだった。

 同社が分析で扱うデータ品目は、大型店舗では10万点を超え、平均すると7万点にも及ぶ。この膨大な量のデータに対する分析において「MicroStrategyの製品は、機動性がよく使い勝手もいい」と西川氏は言う。現状、各店舗から収集される大量なPOSデータは、日次でデータウェアハウスに格納される。データウェアハウスから作成されたさまざまな売上分析リポートを用いて経営企画部門のマネジメント担当が分析を行い、問題や課題が発見されれば各店舗に対しアドバイスや指導を行っている。

ドリルダウン分析を素早くできるBIツール

 西川氏はMicroStrategy製品を導入した理由について次のように語る。「MicroStrategyを使い始めたのは、2002年くらいからです。当時は、Excelを用い簡単な数字が見られるだけで、売上データもサマライズしたものしかありませんでした。この状況を改善するためにBIツールの利用を検討し、機動性が高く使い勝手のいいMicroStrategyを選択しました。とくに、ドリルダウン系の機能が充実していた点を高く評価しました」

 大量の商品アイテムの日々の売り上げ動向はPOSデータとして蓄積されるが、これを仕入れや商品開発などに活用するべく、機動的に分析するのは容易ではない。トライアルカンパニーでは、個々のアイテム別はもちろん、商品種別、地域別などで商品を切り分け、それを日次、週次、月次などで区切って分析し、さらには昨年対比で分析するなどさまざまな角度で動向を追いかける。

 こうした分析作業に手間が掛かっていては、商機を逃すきっかけとなり、ビジネスに支障が出る。また、商品売り上げの状況把握が遅れることは、パートやアルバイト人員の正確なシフトなどの運営にも大きな影響を及ぼすことにつながる。

 西川氏によれば、BIツールで、迅速に大量データの分析を行うようになってから、定番商品の開発スピードもかなり上がったという。売り上げ動向の異変をすぐにキャッチして、原因を探り、打開策を打つというのは、小売業にとっては必須の日常業務のはずだが、現実にはそれを着実に行っている企業ばかりではない。売れ筋を見極める、といえば簡単だが、細かなトレンドはベテランマネジャーといえどもすぐに分かるものではない。BIツールはそうした漏れを防ぎ、「こうした切り口で見てはどうか」という分析のアイデアを各スタッフから生み出させる効果を上げている。

 「見たい人が見たいものを、見たいときに見られる。これがMicroStrategyの活用で、実現できたことです」と力強く語る西川氏は、今後の展開として、MicroStrategyの活用をさらに広げ、トップマネジメントが容易に売り上げの状況を一覧で把握できるよう、ダッシュボードの機能を活用したいと考えているという。現場に近いところでの活用が活発化することで、経営が必要とする将来予測や、よりリアルタイムに近いデータ活用のプランがスタートし始めた。厳しい経営環境の中、トライアルカンパニーが行ったデータ分析の徹底した取り組みは、戦略的な差別化を図るためのBIツール活用法として、多くの企業の注目を集めている。

トライアルカンパニーでのMicroStrategyシステム導入図(資料提供:マイクロストラテジー)

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