クラウド・仮想化に取り組む先進企業たち仮想化ソリューションセミナー

9月25日に開催された仮想化ソリューションセミナーでは、仮想化・クラウドの取り組みについて、ユーザー企業による先進的な事例が紹介された。

» 2009年09月25日 18時13分 公開
[石森将文,ITmedia]

 仮想化ソリューションセミナーのセッションでは、仮想化を通じビジネス部門の期待に応えるシステム構築に挑んだ先進企業の取り組みが紹介された。


 富士フイルムコンピュータシステム(富士フイルムの情報系関連企業)システム事業部 ITインフラ部 柴田英樹 部長は、同社が実施したデータセンター最適化のきっかけと効果を解説、同社では過去、情報システムの分散化が進み、例えば管理下にあるデータセンターのサーバ運用コストについては「4年間で4倍」にまで増加したという。しかし平常時のリソース活用率は2〜3割にとどまるという現状があり、運用コスト削減と過剰投資抑制、またその先の資源配分最適化が急務になった。

 そこで同社では、富士フイルムグループの中期経営計画(「VISION75」)に基づきIT戦略を策定。2007年の10月からデータセンター最適化の構想を開始したという。

 アセスメントやベンダーからのスキルトランスファー、開発系サーバでの検証に約1年をかけ、本番系サーバに移行したのが2008年の11月から。現時点で新データセンターでの稼働は半年を経過している。

 柴田氏はサーバ統合の効果について「過剰投資の抑制」や「CPU/メモリの使用率を約8割までに向上」、また「属人性の排除と運用自動化」を挙げる。加えて評価の高い改善項目は「CPU/メモリ/ストレージの使用部門に対する従量課金を実現」したことだという。これらによる運用コストの削減や無用なライセンス購入の排除に伴い、年間5億円程度のコスト削減に至ったという。

国内拠点をまたいだ「N+1」構成で災害対策も

 富士フイルムコンピュータシステムと同様、パナソニックの情報システムを一手に担うパナソニック電工インフォメーションシステムズも、オープン化(ダウンサイジング)によるサーバ台数の増加、それに伴う管理の煩雑化が問題になったという。同社執行役員 ソリューションビジネス本部の田中啓介 本部長によると、課題解決のため同社が選択したのはイージェネラのBladeFrameだという。

 BladeFrameの特徴としては、PAN(Processing Area Network)が挙げられる。サーバをハイパーバイザーで仮想化する一般的な手法とは異なり、サーバそのものを成り立たせるNICやHBAといった物理リソースも完全に仮想化し、その構成情報が別途管理される。メリットとしては、稼働するアプリケーションと物理サーバのひも付けから開放され、また待機系に構成情報を適用することで迅速なフェイルオーバーも可能になる。

 2009年8月現在の稼働状況は、11筐体のBladeFrameに240枚のブレードを格納。その上で50のシステム、約400のゲストOSが稼働し、受発注、販売、生産管理、CRMといったサービスを提供されているという。

 BladeFrameの仮想化技術を最大限に引き出すため、ストレージには3parのInServを採用。田中氏は「RAIDグループを作成し、そこからボリュームを切り出す」一般的なストレージとは異なり、「(RAIDグループではなく)チャンクレットを作成し、そのチャンクレットをグループ化することで動的・自律的にボリューム管理できる」InServの特徴は、BladeFrameのPANアーキテクチャに最適だ、と判断したと説明する。

 結果パナソニック電工ISでは、総数240台に上るサーバ管理を、社員と外部社員の計2人で運用。年間約2900万円もの人件費を削減した計算だという。ストレージの利用率も90%まで向上させた。また開発部門からの依頼によるサーバ構築時間を従来比94%短縮し、BladeFrameのPANアーキテクチャを利用した「N+1」冗長構成をとることで、約2分30秒で障害の検知から自律復旧までを行えるようになった。同社による試算では、一般的な手法で冗長構成をとった場合と比較し、約7000万円の削減効果があったとされる。

 なおパナソニック電工ISでは、同社が所有しBladeFrameを展開する北海道、東京、大阪、九州の各データセンター間で、拠点をまたいだディザスタリカバリ環境を構築。ある拠点が災害などで停止した場合でも、PANによるフェールオーバーが働き、データセンターの構成情報がほかのデータセンターにコピーされ、継続稼働するという。

クラウド化は過去の取り組みの延長

 同様に大阪ガスの情報系関連企業であるオージス総研では2つの視点から、仮想化技術を活用しているという。講演を務めた同社運用サービス本部 池田大マネジャーによると、その1つは「オープンソースの活用」だという。

 そもそも、サーバを仮想化し論理サーバの数を増やせるとしても、その上で動かすソフトウェアライセンス費は無視できない。池田氏は、論理サーバ数やユーザー数に依存しないオープンソースを活用することで、解決を図った。

 例えば認証ゲートウェイ(SSO)システムについては、グループ1万9000人、グループ外も含めると2万5000人が常時利用しているという。RedHat Enterprise、Apache、MySQL、OpenLDAPなどシステムを構成することで、商用ソフトウェアで構築した場合と比較し大幅にライセンスコストを引き下げられる。オージス総研ではそのほか、ID管理システムや企業ポータルの構築も「仮想化+オープンソース」の組み合わせで実施し、かつその仕組みを外販にもつなげているという。

 もう1つの視点は、「プライベートクラウド」の構築だ。2001年当事オージス総研では、ダウンサイジングの掛け声のもと、メインフレーム、UNIXサーバ、Windowsサーバ、オフコンが乱立する状況に陥ったという。

 まず2006年までの取り組みの中で、UNIXサーバ群とオフコン群をAIXサーバを中心とする統合基盤に集約(第1段階)。さらに2008年までの取り組みでは、その統合基盤を、集約率が必要なものについてはPower6サーバ、そのほかの環境についてはLinuxサーバにそれぞれ統合した(第2段階)。

 最終的に現在につながる統合としては、棚上げとなっていたWindowsサーバ群を、大阪ガスグループ会社のサーバ群とともに統合Windows基盤に集約(第3段階)。サーバリソースをサービス提供(HaaS、IaaS)するプライベートクラウド基盤が確立されたという。

 池田氏は、プライベートクラウド基盤の利用を促進する手段として「インセンティブが必須」と話す。基盤を利用する社内ユーザーには迅速かつ安価にサービスを提供する一方で、基盤外へのシステム構築を要望するシステムオーナーには、相応のコスト負担を求めるべきだと説く。

 大阪ガスでは、プライベートクラウド基盤を「サーバ貸そうか」というサービスとして外販する予定だという。取り組みの経緯を振り返り池田氏は「プライベートクラウドは新しい取り組みではなく、これまでの取り組みの延長だ」と話す。

富士フイルムコンピュータシステム柴田氏(写真=左)、パナソニック電工インフォメーションシステムズ田中氏(写真=中)、オージス総研池田氏(写真=右)

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