企業が活用するITの在り方に変化が起きつつある。企業は情報システムをどのような考え方で運営していくべきか。戦略コンサルティングファーム独ローランド・ベルガーに連載してもらう。
クラウドコンピューティングの登場が1つのきっかけになり、企業が活用するITの在り方に変化が起きつつある。所有から利用への流れが現実味を帯びてきたのである。今後、企業は情報システムをどのような考え方で運営していくべきか。戦略コンサルティングファーム独ローランド・ベルガーに連載してもらう。ここでは寄稿における論点を紹介したい。
「ビジネスの中核としてITをとらえ、導入してきた層が50歳代を迎えようとしている」
ローランド・ベルガー東京オフィスの大野隆司パートナーは話す。同氏によると、1990年代のITを振り返ったとき、コンシューマーユーザーにとって最大の出来事はWindows 95などかもしれないが「エンタープライズユーザーにとっては間違いなくERPの登場だった」(大野氏)という。
1990年代序盤からSAPなどが日本にERPパッケージを導入してきた歴史は、確かに山が動いたといえるほど大きな出来事だ。スクラッチ開発から「出来合い」のシステムへと移行した。当初は大規模なカスタマイズが当たり前といった状況もあり一筋縄には行かなかった。現在では、大企業の多くがERP導入を済ませており、人事や会計はもちろん、製造業なら資材の調達から在庫の受発注に至るまで、ERPをはじめとしたパッケージソフトウェア抜きにはビジネスが語れない。
大野氏はここで「業務運営に必要不可欠であることと、競争優位性獲得のために不可欠であることは違う」と指摘する。「ITで他社との差別化を図らなくてはいけない」というのが企業の一般的なメッセージだが、「競争劣位にならなければいい」というのが実態だと同氏は強調する。逆に言えば、ITで他社に後れを取るのは致命的ということになる。
背景には、企業におけるITの在り方が「所有から利用」に変わることで、情報システム部門の役割にも変化が訪れていることがあるようだ。例えば「ユーザー企業がオフショアベンダーの活用に慣れてきている」(同氏)という。
「売上高が300億円ほどのシステムインテグレーターを使えばオフショアベンダーよりも低コストで済むかもしれない」が、システムへの要求が大きくなった場合、リソースの少ないシステムインテグレーターでは対応しきれなくなる。その意味で、オフショアベンダーを利用する企業が今後増えてくると予測する。
こうした動きは、情報システムの在り方にパラダイムシフトが起きていることを示している。先行きに不透明感が大きい中で、企業が「勝つこと」よりも「負けないこと」を重視するのは不思議ではない。
一方、鈴木信輝プリンシパルは「オフィスのレイアウトを専門家に任せずに自ら手掛ける会社はない。ITも同じだ」と続ける。情報システムを自社所有する体制に変化が起きつつあるという意見で、大野氏と一致している。
所有から利用へのシフトという議論の結果として問われてくるものの1つは、企業におけるIT部門の存在意義だといえそうだ。「これからの情報システム部門は何をするべきか」「CIOの役割はどんなことか」「CIOは本当に必要なのか」――こうした原点回帰の議論がしばらくの間、日本企業の中で巻き起こるかもしれない。
2月16日掲載の変化する情報システムのパラダイムを皮切りに、戦略系ファームでありながら情報システム視点のコンサルティングに強みを持つローランド・ベルガーに「日本企業を元気にする連載」をしてもらう。
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