ローソンがメディアになる日――デジタルサイネージの新たなビジネスモデル

ローソン店舗にデジタルサイネージを設置し、広告メディアとして展開する「東京メディア」が5月29日に始まる。店舗にいない人を新規顧客に変えるというビジネスモデルがユニークだ。

» 2010年05月20日 13時14分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 年2けた成長が見込まれるデジタルサイネージ市場において、小売業を筆頭に多くの企業が実サービスの展開や実証実験に乗り出している。その主目的は商品やサービスの販売促進にあるが、仕掛け方1つで新たなビジネスチャンスが生まれるかもしれない。こうした中、5月29日にデジタルサイネージを活用した新たなサービスが始まる。首都圏のローソンを中心に、店舗情報や時間帯・地域に合わせた広告を配信する「東京メディア」だ。

 東京メディアは、ローソンの店頭に46インチのデジタルサイネージを2台設置し、音声と映像でキャンペーン情報や広告、時報などのコンテンツを配信するサービスである。5月29日に同サービスを開始するクロスオーシャンメディアは、初年度に都内300店舗のローソンにデジタルサイネージを設置する計画を立てている。「できたての空揚げ」など、購買につながりやすい情報をリアルタイムに配信し、来店者を増やしていく。

東京メディアの画面設置端末のイメージ 東京メディアの画面(左)と設置端末のイメージ

 デジタルサイネージによる販売促進の肝は、来店者が有益と感じる特売情報などをその場で提供することにある。だが、同事業はこの施策と一線を画す手法を採用している点でユニークだ。それは「デジタルサイネージの側を通らない人でも(東京メディアに)参加してもらえる」(クロスオーシャンメディア 市原義文社長)仕掛けを取り入れていることだ。

 具体的には、自宅や勤務先など店舗から遠い場所にいる人の携帯電話にローソンのクーポン情報などを配信し、店舗への導線を敷く。その情報を見て店舗に来た人に対し、FeliCaリーダ/ライタを搭載したデジタルサイネージ経由でクーポンを提供する。これは、店舗にいない「見込み顧客」を「新規顧客」に変えることにつながる。

東京メディアの参画企業 東京メディアの参画企業

 端末を設置する店舗は、4年後には2460店舗(首都圏と名古屋や関西地区を含む)に拡大する計画だ。全国に約9000店舗を出店しているローソンの地の利を生かし、設置店舗数を増やすことで、スケールメリットを見込む。初年度の売り上げ目標は4億円としている。

クロスオーシャンメディアの市原義文社長 クロスオーシャンメディアの市原義文社長

 東京メディアの収益源の多くを占めるのは「広告の出稿料」(市原社長)である。広く広告主を募るには、視認率をはじめとした各種の効果測定指標を定める必要がある。これに対して市原社長は「閲覧した人や閲覧した時間帯を計測するセンサーを、一部の端末に導入することを検討している」と話し、詳細は今後詰めていく方針を示した。配信したコンテンツと閲覧者の属性を高い精度で突き合わせられれば、「広告メディア」としての効果を幅広く訴求できるようになる。

 東京メディアを展開するクロスオーシャンメディアは、ローソン、アサツー ディ・ケイ、NTTドコモが3月1日に設立した合弁会社だ。市原社長はかつてローソンに在籍し、デジタルサイネージのプロジェクトを検討する立場だった。小売ビジネスにおける客数や既存店の日販の減少を解決するために、「小売業という枠を超えた新たなビジネス」を模索。ローソンの実店舗をデジタルサイネージでメディア化するという糸口を見いだした。

 同社の狙いは、ローソンの実店舗に設置したデジタルサイネージを広告メディアと見立て、収益を確保することだ。事業の正否を分けるのは、「店舗に来ない人を顧客にする」(市原社長)ことができるかにある。この視点は、デジタルサイネージを活用した新たなビジネスモデルの構築を示すとともに、小売業が課題とする「新規顧客開拓」を解決するための切り口になる可能性を秘めている。

デジタルサイネージにはFeliCaリーダ/ライタが設置されており、キャンペーン情報などを手に入れられる デジタルサイネージにはFeliCa搭載端末が設置されており、キャンペーン情報などを手に入れられる

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