現場で効くデータ活用と業務カイゼン

サービス開始まで1カ月――FileMakerで構築したショールームのコンテンツDBiPadのデジタルサイネージ活用も

iPadやiPhoneなどiOS環境でのシステム開発には、PC向けとは異なる制約条件が存在するが、FileMaker Goの採用で短期間での開発を実現し、また逐次の改良を行えるようにした例を紹介しよう。

» 2011年01月18日 08時00分 公開
[岡田靖&編集部,ITmedia]
シスメックス 施設管理部 ソリューションセンター管理課の田所章係長

 神戸市に本社を置くシスメックスは、血液などの検体検査機器および試薬の製造をその中心事業としている。神戸市西区にある同社の「ソリューションセンター」は、事業案内から製品のデモやトレーニング、さらには学術活動の場としての役割を持った施設だ。

 世界中から顧客が訪れるというソリューションセンターのうち、ショールーム機能を持つフロアには、2005年の開設以来、巨大な世界地図をプリントしたパネルが設置されていた。そこには世界各国にあるシスメックスの製造・営業拠点が書き込まれ、シスメックスの事業展開を一目で表すようになっているが、オープンから5年あまりが経過する間に、何度か情報のアップデートが必要になっていたという。

 「拠点が増えるたび、地図上にシールを貼って対応してきましたが、ここ数年は海外の事業拠点がいくつも立ち上がり、地図もシールだらけになっていました。そこで世界地図パネルのリニューアルを決めたのです」と、シスメックス 施設管理部 ソリューションセンター管理課の田所章係長は話す。

 リニューアルに際しては、これまでのような印刷パネルではなく、大型平面ディスプレイを使うことが決まった。コンテンツのメンテナンスを容易にするのはもちろん、静止画だけでなく動画などのビジュアルも使い、より効果的にプレゼンテーションできるようにするためだ。そこで、もともと置かれていた地図とほぼ同じ規模となる、46インチテレビを9面組み合わせたディスプレイを採用することになった。ディスプレイに映し出された地図上の拠点を選ぶと、それぞれの事業拠点の詳細情報が表示される仕組みだ。同時に今回、訪問者に対し施設内を案内する際の情報端末としてiPadを採用し、ディスプレイに映し出すのと同等の情報をiPadでも見られるようにすることとした。

iPadはFlash未対応。解決策は?

友野印刷 OMS推進マネジャー 赤澤光氏

 ディスプレイとiPadを活用する新しい世界地図パネルは、従来の世界地図パネルを置き換えるという当初の目的にちなみ、関係者の間で“ワールドマップ”と呼ばれている。まさに開発に取り掛かろうとしていた2010年9月上旬、思わぬ要件が加わった。スケジュールの大幅な短縮である。

 「2010年の10月7日に、当社が関わる学術系の展示会があり、そこに間に合わせたいと、営業部門から強い要望がありました。ワールドマップのコンテンツをインタラクティブに動かす仕組みとしては、短期間で開発できることに加え、紹介する事業拠点も多いことから拡張性の高さが求められます。このような観点からツールを絞り込みました」と田所氏は振り返る。

 コンテンツ制作を担当したのは岡山市に本拠地を置く友野印刷である。同社でOMS推進マネジャーを務める赤澤光氏がシスメックスからの連絡を受けたのは、期限まで1カ月を切った、9月8日のことだったという。

 「インタラクティブなコンテンツにはFlashを使うことが多いのですが、iPadでFlashを表示することは難しい。期間に余裕があれば、Webベースで作ったり、iOSアプリとして開発したりするという選択肢もありますが、それには時間が足りませんでした」(赤澤氏)

 だが赤澤氏には1つのアイデアがあった。そのアイデアを実現するためのパートナーとして翌9月9日にアプローチしたのが、FileMakerでのシステム開発を得意とするジュッポーワークスである。「FileMakerのiOS端末版であるFileMaker Goで、テキストと静止画、そして動画を動かせるようにしよう、と考えました」と赤澤氏は話す。ジュッポーワークスではFileMaker Goの実用性について検証を進めていたといい、赤澤氏はそれに期待したのであった。

FileMakerの開発生産性を生かし約1週間でサンプルを制作

ジュッポーワークス 営業企画部の車田和則課長

 こうして、大画面ディスプレイにはWindows版のFileMaker Proを、iPadにはFileMaker Goをそれぞれ採用することが決まった。開発は、シスメックスが用意した素材を友野印刷がコンテンツ化するのと並行して、ジュッポーワークスがFileMakerのデータベースを構築する流れで進めることとなった。

 「もともとFileMakerは、開発生産性の高さに定評があります。分担作業でありながら、着手して1週間ほどで最初のサンプルを作り上げました」と、ジュッポーワークス 営業企画部の車田和則課長は評価する。

 「開発そのものより、むしろ素材集めに時間がかかるくらいでした」と赤澤氏は笑う。また「当然ですが、大画面ディスプレイは1セットしかありません。そのため仕上がりチェックは必ず現場で行う必要がありました」(赤澤氏)という。

 作り上げたサンプルは、わずか1週間で作ったものとはいえ完成度が高く、若干の手直しをしただけで納品品質に達したという。こうして9月末にはショールームに大画面ディスプレイを設置し、イベント当日までの約1週間で、iPadともども微調整や運用トレーニングまで済ませることができた。

 ちなみに、大画面ディスプレイは9面を「縦3画面×横3画面」に配置し、連続した1枚の巨大画面として使っている。この画面を扱うため、Windows 7を搭載した高スペックPCを人目につかない位置に用意し、その上でFileMaker Proを扱う構成だ。操作は、ディスプレイの向かって右手に用意されたキーボードとマウスで行い、画面の前に集まった来客に説明しながら画面を切り替えていくのが基本的な使い方となる。

 一方、iPadは会議室や応接室など、施設内の他の場所で説明する際に用いられる。こちらも、FileMaker Goで作られた画面を操作して切り替えながら説明していくような使い方だ。どちらの端末もコンテンツはローカルに置かれており、当初はスタンドアロン構成で運用している。

レスポンスにも問題なく、来客の受けも良好

シスメックス 施設管理部 ソリューションセンター管理課 池田衣里氏

 こうして、従来の動かぬ地図からインタラクティブな大画面ディスプレイへ、そして会議室や応接室などでは紙の資料からiPadへと、それぞれ案内資料が一新された。完成から2カ月あまりが経過し、ワールドマップはすでに多くの訪問者の目に触れている。実際に案内を担当する、シスメックス 施設管理部 ソリューションセンター管理課の池田衣里氏は「46インチ9面パネルの大画面は、やはり迫力が違います。動画を交えたiPadでのプレゼンテーションも好評です」と評価する。

 なお大画面ディスプレイでもiPadでも、原則として来客が操作するのでなく、池田氏らシスメックス側の担当者が説明しながら操作することにしているという。プレゼンテーションの場面では操作に対するレスポンスが気になるところだが、田所氏によれば「実用上支障のないレベル」ということだ。

 「ただしiPadは、若干遅いと感じる部分もあります。ですがイライラするほどではありません。またデータをローカルに保持しているため、動画もスムーズに再生できます。むしろ、同じものをWebで作り無線LAN経由で使っていたとしたら、動画の視聴には不安が残ります」(田所氏)

利用拠点の拡大、コンテンツの拡充を進め、今後はサーバ連携も視野に

 シスメックスでは、ソリューションセンター以外の拠点にもワールドマップの導入を進めている。すでに2010年12月末には東京のショールームでも稼働を開始、テクノパークでも2011年春頃の稼働開始を目指して準備を進めているとのこと。また、他拠点への導入と並行して、コンテンツも拡充している。例えば自社の情報だけでなく、周辺の観光情報も用意した。ワールドマップを更新する際もFileMaker上でデータを追加して各端末に配布するだけでよく、主にシスメックスの広告宣伝部門が作業に当たっているという。

 「コンテンツを簡単に増やせるため、ワールドマップという呼び方が適切ではなくなってきました」と田所氏は笑う。「iPadとFileMaker Goという拡張性の高いツールにより、良い意味で思ってもみない成果を出せました」(田所氏)

ワールドマップの画面

 画像や動画といったコンテンツは画面の解像度に合わせて用意しているため、大画面ディスプレイ用のデータ容量は大きなものとなる。だがiPad用は、2010年末時点で150Mバイト程度と余裕があり、今後も積極的にコンテンツを追加する方針だ。

 「当社のコア技術や個別製品の案内も追加していきます。事業拠点が増えたり新製品が登場したりすれば、データ量はさらに増えるでしょう。今のところ、製品の詳細な内容に踏み込んだ質問にも対応できるよう、iPadにはPDFの製品資料も入れています」(田所氏)

 ワールドマップはFileMaker Pro/FileMaker Goをベースとしているだけに、PDFデータの連携も容易だ。現時点では、PDFデータはiPadにただ入れられているだけだがワールドマップにはPDFデータを投入すると同時にテキストを抽出して全文検索用フィールドを作る仕組みも用意されており、必要とあれば他のコンテンツと連携する下地も整っている。

 将来的には、ワールドマップ用のサーバを用意し、クライアント/サーバ構成で運用することも検討されている。全てのコンテンツをサーバに集約しておき、そこから各端末に必要なデータを取り込んで使おうというのだ。こうすれば、どの拠点のどの端末でも、最新のコンテンツを使って説明できるようになる。

 「何度も来場する訪問者もいます。同じ内容の説明では飽きられてしまいますから、常に新しいコンテンツを見せられるようにしておきたいのです。コンテンツデータベースをFileMakerで構築したことで、自分たちの手で、いつでも最新の情報にアップデートできます。このメリットは、とても大きいと実感しています」(田所氏)

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