災害対策としてテレワーク環境整備を推進しようオルタナティブ・ブロガーの視点

場所に縛られない働き方は、災害時にその真価を発揮する。東北地方太平洋沖地震後、実際にテレワークを実行したインフォテリアの代表取締役社長 平野洋一郎氏が、テレワークの必要性について提言します。

» 2011年03月30日 17時21分 公開
[平野洋一郎,ITmedia]

(このコンテンツはオルタナティブ・ブログ「Alternative 笑門来福」からの転載です。エントリーはこちら。)


 東日本大地震の後、首都圏でどのくらいの企業が、社員の安心・安全を確保しながら、企業活動を維持できたでしょうか?

 私の周りでは、「会社に行かないと仕事にならない」と通常勤務を続けざるを得なかった企業も少なくありません。対面業務の少ない内勤や開発の部門でも「PC持ち出し禁止」「自宅から会社への接続禁止」などのために、出社せざるを得なかったという話をいくつも聞きました。

 個人情報保護法制定以降、モバイル技術やセキュリティ技術の進化に反して、多くの企業が社外でのコンピュータ利用の制限が進めてきました。社内の無線LANすら廃止した企業も珍しくありません。

 しかし、そういう企業ほど働く場所の柔軟性が低く、今回の災害で企業活動の柔軟性に欠けることが露呈しました。とある企業の部長は、「うちの部門の仕事はある程度在宅でも可能な内容なので、家族の不安を考えて在宅勤務をさせたかった。しかしPC持ち出し禁止なのでIT部門に持ち出し申請をしたが、『それどころではない』と一蹴された」と嘆きました。

 いまや、情報セキュリティを維持しながらテレワークを行う技術・環境はかなり整っています。しかし、それにもかかわらず現場の使い勝手や生産性を大幅に減じる運用ポリシーが金科玉条のように掲げられています。今回の震災をきっかけとして、セキュリティが過剰でないか、現場の柔軟性を殺したり、大きな負担を強いていないかなど、ITの運用ポリシーを見直して、テレワーク環境構築を推進しようではありませんか。災害対策を考える時、サーバやホスト側のバックアップシステムはよく議論されますが、エンドユーザー側のバックアップシステムは忘れられていることが多いものです。テレワーク環境が構築できれば、エンドユーザー側のバックアップシステムにもなります。

 ちなみにインフォテリアでは震災直後は1週間、役員を除く全社員を原則「自宅勤務」としました。「自宅待機」ではありません。自宅でかなりの仕事ができるからです。具体的には、個人携帯まで含めたメールによる全社連絡網、OnSheet(自社製クラウド型表計算)を使った居場所と状況の把握、Skype(全社員ID取得)を使った会議、営業系に全員配備されたスマートフォン、VPNを使った社内システムアクセスなどを使い、客先訪問や、荷物の受け渡しなど場所に縛られる作業については必要最小限の時間のみ外出するようにして、自宅業務を遂行しました。このような環境でしたので、人によっては自宅である必要すらなく、実家に戻って「勤務」した社員もいます。

 ある経営者からは「皆が出勤することで一致団結して頑張れる」という精神論的な意見も聞きました。しかしホワイトカラーの生産性を考えると、交通機関が制限される中で出社して、家族や帰宅のことなどに不安とストレスを感じながら働くより、自宅勤務の方がよっぽど仕事になるはずです。また、「一致団結」についても、インフォテリアのケースでは、いつもと違う勤務形態ということで、社員一人ひとりの緊張度も高まり「皆でなんとか乗り切ろう」との気持ちが溢れました。

 企業経営者の立場で考えても、大きな災害が発生した場合に、「社員と家族のための安全・安心の確保」と「社会のための業務の遂行」は、両立させたい重要なテーマです。しかしながら、仕事場所が特定の場所に縛られるのでは、その両立が極めて難しくなります。

 各社の経営者、IT部門の方、そしてユーザー部門の方に提言します。災害対策としてテレワークの環境整備を進めましょう。そして、それは災害時だけでなく、企業の柔軟性を高めることにもつながると確信しています。

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