1321台のiMacをブートキャンプ、東大が構築した新「教育用計算機システム」導入事例

東京大学情報基盤センターが4年ぶりに教育用計算機システムを刷新。Mac/Winのデュアルブート環境やストレージデータの複製による災害対策を導入した。

» 2012年03月23日 16時39分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 東京大学情報基盤センターは3月23日、同月に竣工した教育用計算機システム「ECCS2012」を報道機関向けに公開した。4年ぶりに刷新された同システムではMac/Windowsのデュアルブート環境やサーバ仮想化技術、システム障害および災害対策としてのストレージのデュプリケーション技術などを新たに導入している。

東京大学情報基盤センター情報メディア教育部門の柴山悦哉教授

 ECCS2012は学生の教育学習用システムとして主に約6000人の1、2年生が利用するほか、教職員や研究者も利用する。メールのアカウント総数は約4万件。またメールやWeb、DNSのホスティングサービスも提供しており、メールサービスでは約2万6000件のアカウントに対応。システムは駒場(目黒区)と本郷(文京区)、柏(千葉県柏市)の各キャンパスに分散しているが、運用は駒場キャンパスと本郷キャンパスの各3人、計6人の常勤職員が中心となって担当する。

 センターで情報メディア教育部門を担当する柴山悦哉教授は、「文系から理系まで、留学生を含めた多様な学生のニーズに対応しつつ、分散しているシステム環境を少人数で運用しなければならないという課題があった」と話す。

 ECCS2012の構築に当たっては一般競争入札を行い、運用期間54カ月の全体(今夏に更改予定のメールホスティングシステムを含む)の落札額は7億4600万円(税別)。2008年に運用を開始した従前のシステムの一般競争入札による落札額は約12億円(運用期間48カ月、税別)であったという。

システム概要図

iMacでMac/Winのデュアルブート

 ECCS2012の端末台数は1321台で、従前システムの1362台から微減となった。従前システムでは教育内容に応じてMacとWindowsの専用マシンを採用したが、ECCS2012では全面的にiMacを採用し、ブートキャンプ機能を利用してMac OS X LionとWindows 7 Enterprise Editionを1台のiMacで利用できるようにした。

 新たな試みとしては、学外からの画面転送によるリモートアクセス、コンビニエンスストアでのプリント出力への対応、シングルサインオンの導入が行われた。

 学外からのリモートアクセスではこれまでUNIXのみで可能だったが、VNCベースの画面転送型システムを導入。ECCS2012側に30台のMac miniを設置し、最大30人がPCなどから同時接続できるようにした。学外でのプリント出力では富士ゼロックスのネットプリントサービスを導入することで、学内に限らず全国のセブン-イレブン店舗でプリント出力をできるようにした。Suicaなどの電子マネーを使った決済も可能。これに併せて41台あったプリンタを28台の複合機にリプレースし、紙文書をスキャンしてデジタルイメージとして保存できるようにもした。

 情報メディア教育部門の丸山一貴助教は、「年間で100万枚近い紙への出力があり、レポート提出などで学期末に学生が殺到する状況だった。学外で印刷できるようにすることで混雑解消を期待したい」と話している。

 シングルサインオンの実現に当たっては、NECの統合型サービス認証基盤製品「WebSAM SECUREMASTER/EAM」を導入して約4万件のアカウントを管理できるようにし、同時にNECのコンサルティングを受けてID管理業務フローの見直しを図った。以前の管理システムは頻繁に発生するIDの作成、停止、変更、削除を迅速に行うためにほぼ全てを内製していたが、ECCS2012ではこれを2割程度に抑えた。「担当者の引き継ぎが煩雑になるなど近年は運用が難しくなっていた。ECCS2012の構築ではパッケージ製品の機能でなるべく補えるようにし、運用工数をできるだけ削減した」(丸山氏)

 端末の管理にはKaseya Japanの「Kaseya」とキヤノンITソリューションズの「Total Manager for Mac」を採用。OSイメージの端末への配信やパッチ適用など伴う変更などの管理を一元的に行いつつ、作業工数を削減している。

166台の端末が設置された駒場キャンパスの大演習室1。学生が利用する2台の端末の真ん中に講義などに使うモニターを設置。写真右は講師用の端末
利用時にブートキャンプ画面でMacかWindowsかを選んで起動

デュプリケーション技術やサーバ仮想化を導入

 ECCS2012の基盤部分であるサーバにはNECの「Express5800/SIGMABLADE-M」などを、ストレージにはEMCジャパンの「Symmetrix VMAX」「VNX VG8」「VNX5700」を採用。駒場キャンパスと本郷キャンパス間での通信状況を常に監視・分析しながら最適なタイミングでデータをデュプリケーションする体制とした。災害時やシステム障害時の際には、10分前の環境に確実に復旧させる目標値を設定しているという。

 Symmetrix VMAXは駒場キャンパスに設置され、ストレージ領域は2テラバイトのSSD、48テラバイトのファイバチャンネル、60テラバイトのSATA HDDによる階層構造としている。「FAST」というEMCの技術でデータへのアクセス状況をストレージが監視し、頻度の高いデータをSSD側に、頻度の低いデータをSATA側に自動的に配置することで、データアクセスのパフォーマンスの向上と省電力化を図った。

 ストレージは、従前システムではファイバチャンネルによる100台のHDDを3ラックに収容していたが、ECCS2012では2ラックに減少。設置面積が3分の2となったが、容量は約2倍の110テラバイトとなっている。

 サーバではExpress5800/SIGMABLADE-MとVMware vShere 4.1を組み合わせ、現時点で32台の仮想サーバを稼働。丸山氏によれば、従前のシステムを構築するタイミング(2008年)ではまだ仮想化技術が本格的に普及する前だったことから導入を見送り、全てブレードサーバで運用していたという。

マシンルームの内部(左)とストレージシステムの構成イメージ
(左)ラック上部にリモートアクセス用のMac miniが並ぶ。30台は「スモールスタート」とのこと。(右)ネットワーク関連装置などが並ぶ

 ECCS2012の構築を担当したNECの文教・科学ソリューション事業部の岸克政グループマネジャーは、ECCS2012のコンセプトを「ユーザーの利便性向上と基盤運用の効率化の両立」と説明する。大学などの教育用システムは多数のユーザーがいることから大規模になりがちで、学期末や休暇期間などのシーズンごとにシステムへの負荷が激しく変化する。その一方、少ない人員でシステムの運用から学生からの相談対応まであらゆる業務をこなさなければならないという実態がある。

東京大学情報基盤センターの丸山一貴助教

 システムの中核にあたるというストレージを提供したEMCジャパンの糸賀誠マーケティング本部長は、「電力を含むトータルコストの削減やバックアップ体制の強化が課題になったが、特にバックアップ体制では国内で初めて離れたキャンパス間でのデータデュプリケーションの仕組みを実現できた」と述べた。

 ECCS2012の本格的な運用は4月からの新年度に合わせてスタート。だが、4月には電気料金の値上げが実施される。3月の年度末に教職員の利用が多いというメールシステムの更新を夏場に控えている。今後について丸山氏は、「節電を中心に運用面でのさらなる工夫を図りながら、新システムの導入効果をみていきたい」と語っている。

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