アジアに開く 沖縄IT産業の未来

沖縄と香港をつなぐ海底ケーブルの可能性アジアに開く 沖縄IT産業の未来

アジアマーケットを狙う日本企業を後押しするインフラ基盤として官民一体で推進しているのが、日本とアジアを結ぶ沖縄GIXだ。

» 2012年08月15日 11時05分 公開
[伏見学,ITmedia]

 沖縄がアジアにおける情報ハブになるための強固なプラットフォーム――。そんな頼もしい存在として注目を集めつつあるのが、沖縄と香港を高速インターネット回線でつなぐ「沖縄GIX(グローバル・インターネット・エクスチェンジ)」だ。

 IXとは、プロバイダー同士を高速回線で相互に接続するための施設、あるいはサービスのこと。沖縄GIXの最大の特徴は、日本とアジアを国際海底ケーブルで直接接続することで、アジア各国との高速かつ安定的なインターネット通信が可能になるという点である。これまで、日本とアジアを結ぶインターネット通信の多くは米国経由によるものだったため、通信の遅延や寸断が少なからず発生していた。沖縄GIXを利用することで日本とアジアの通信距離が短くなり、こうした課題を解決できるという。

 加えて、沖縄GIXは企業システムの効率的な災害対策にもつながるとしている。「例えば、ある企業が東京本社のバックアップサーバを沖縄に置き、アジアにもその拠点のサーバを置いていたとする。GIXを活用して沖縄のサーバをアジア向けのメインサーバにすれば、本来3カ所に作らなければならなかったバックアップ拠点を2カ所にすることができる」と、GIX沖縄の渡嘉敷唯昭取締役はメリットを強調する。

 そのほか、今までアジアに設置していたデータセンターを沖縄に移したいという企業の要望にも応えることになるという。「個人情報を含め、データを国外に置くのはリスクが高い。実際にデータセンターの移行を検討する企業も増えている。GIXを利用することで、例えば、沖縄にデータセンターを置いて重要なデータを守り、Web系サーバだけは香港に置くなど、企業の事業に合わせた柔軟なシステム配置が可能になる」と渡嘉敷氏は述べる。

10年の時を経て事業化

 GIX沖縄は、沖縄GIXを事業として本格的に推進することを目的に、2010年5月に設立。沖縄県の「沖縄GIX等活用ビジネス支援事業」の支援を受け、沖縄クロス・ヘッドドヴァファーストライディングテクノロジー(FRT)の3社が出資して誕生した。渡嘉敷氏はその中核企業である沖縄クロス・ヘッドの社長を務める。

GIX沖縄の渡嘉敷唯昭取締役 GIX沖縄の渡嘉敷唯昭取締役

 沖縄GIXの構想は、さかのぼること2000年に、沖縄電力の仲井眞弘多社長(現・沖縄県知事)が「沖縄国際特区構想」を打ち出したことに由来する。仲井眞氏は、沖縄とアジアを国際海底ケーブルでつなぎ、沖縄をアジア諸国・地域との情報通信ネットワークの物理的接続拠点にするとした。

 その後、沖縄県でも、2005〜2006年に沖縄GIXについての調査事業を行い、沖縄はアジアの情報のハブになれる要素がそろっているということで、2007年〜2009年まで沖縄県の支援を受けて、沖縄クロス・ヘッドとFRTの2社がGIX構築に関する実証実験を進めた。

 具体的に、どのような実証実験を行ったのか。「例えば、日本経済新聞に協力してもらい、北京オリンピックの画像をGIXを活用して配信した。香港経由で画像を沖縄のコンテンツサーバにアップして、その画像を東京本社からダウンロードするという実証実験を行ったところ、通信スピードがこれまでと比べて速く、質の高いサービスが提供可能なことを確認できた」と渡嘉敷氏は振り返る。

 そのほかにも、実証実験は好結果を生んだため、沖縄の地の利を生かした新たな情報ハブになる、重要なインフラになるだろうと判断し、GIX沖縄が設立されたというわけだ。

東京は遠いが、アジアは近い

 本格的な事業展開をスタートしたことによって、実際に企業での導入事例や、アジア市場を狙う企業からの問い合わせが増えている。既に現在、安藤証券やエイチアールワン、トランスコスモス、レキサスがGIXを活用してアジア向けにビジネスを推進している。安藤証券では、シンガポールの証券取引所へアクセスする際にGIXを利用。従来と比べて、5分の1のスピードに高速化したという。

 また、ある製造業の会社では、アジア拠点から東京のサーバにあるCADデータにアクセスする際、通信回線の問題でデータ処理速度が遅く、画像が粗くて閲覧できないという状況が頻繁に発生していた。そこで沖縄にサーバを設置し、データを置いて、アジアの各拠点から高速につなげたいという要望が出ているという。

「今まで沖縄は、東京という日本最大のマーケットへの距離は遠くて経済的に不利だったが、対アジアを考えると、物理的な距離は国内で最も近くなり、経済成長に向けたポテンシャルは非常に高い。数年かけて準備してきたものが時代の流れとともにマッチングし始めている」(渡嘉敷氏)

 今後の展開について、GIXを核にして「東アジアのクラウド化」構築を目指すという。渡嘉敷氏は、「現在は香港を経由しているが、今後は上海や韓国などとも通信回線を直接通して、ネットワークがリンク状になるような仕組みを作りたい。その中心が沖縄で、沖縄にデータがあればアジアのどことでもシームレスにつながる。GIXを基盤に日本も含めたアジア向けサービスを提供していく」と意気込んだ。

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