JALの「ターゲティング広告」を成功に導いたビッグデータ分析とは?単価が高まる”ルール”を発見(1/3 ページ)

Web上で航空券の購入を検討しているユーザーのアクセスログを分析し、サービスの質と利益の向上に成功したJAL。IBMの年次カンファレンス「IBM Insight 2014」でその事例とデータ分析への思いを来場者に伝えていた。

» 2014年10月28日 16時30分 公開
[池田憲弘,ITmedia]

 データ分析を通じて顧客一人ひとりのニーズをくみ取り、ビジネスに役立てる。IBMのユーザー向け年次カンファレンス「IBM Insight 2014」では、そんな企業の取り組みが数多く紹介されている。米国ネバダ州ラスベガスで行われている本イベントだが、日本企業の事例も大きな注目を集めていた。その1つが航空会社大手の日本航空(JAL)だ。

 JALは航空会社として各種サービスの品質向上に努める一方、Webでの取り組みも盛んに行ってきた(関連記事:JAL、3年半ぶりのHP刷新に託した意図)。今や、JALのWebページは月間約2億PV、1日当たり約50万人が訪れる(UU=ユニークユーザー、JAL調べ)巨大なサイトとなっている。もちろん、Webサイト経由で航空券やツアーの申し込みを行う人も多く、彼らが残すアクセスログも膨大な量であるのは想像に難くない。

 そのデータからユーザーの興味関心を分析し、一人ひとりに最適な商品を提案できないか――。そのような狙いを基に、2010年12月に「1to1マーケティンググループ」が発足したという。

データ分析で単価が“高くなりやすい”法則を発見

photo Web販売部1to1マーケティンググループアシスタントマネージャーの渋谷直正氏

 「Webサイト経由での売り上げを伸ばすロジックは極めて単純。外から人を連れてくるか、お客さま一人当たりの単価を上げるしかありません。しかし、広告などでユーザー数を増やそうとすれば、膨大な手間とお金がかかります。そのため、単価を上げる戦略として1to1マーケティングがスタートしました」

 そう語るのは、同社Web販売部1to1マーケティンググループアシスタントマネージャーの渋谷直正氏だ。1to1マーケティンググループのミッションは1ユーザー当たりの単価を伸ばすこと。そのために膨大なデータを分析しようと試みた。大学時代から統計学を学んでいた渋谷氏は、IBMのデータ分析ソフトウェア「SPSS」を導入したという。

 導入当初は効果が出る施策が打てなかったものの、国内線を検索したユーザーの搭乗日程、搭乗区間、アクセス時刻、家族構成、出発の何日前に予約したか……といった情報をアソシエーション分析(相関分析)していったところ、ユーザーが通常よりもやや価格が高い座席を選びやすくなる一定の“規則”を発見したという。

 「ログを分析することで、お客さまがなぜ利用をためらっているのか、他社と比較しているのかといったことも分かってきました。単価を上げる方法は、高い価格のサービスを選ばせるだけではありません。エコノミークラスからビジネスクラスにする、なんてことは普通は起こりませんから(笑)。例えば、年1回JALを使ってくれていたお客さまが、年に2回JALを使うようになるような結果も含めて、年間トータルでの利用額を上げることだと考えています」(渋谷氏)

 その後、分析結果に基づき、単価が高くなる傾向があるユーザーに合わせて、国内線の検索画面にやや高い座席の利用を勧めるバナー広告を表示させるA/Bテストを実施した。すると、2週間で売り上げに120万円の違いが出たという。年間ベースで考えれば、実に約3000万円の売り上げアップにつながることになる。

 この成功を通じ、現在は国際線の検索画面でのターゲティング広告や、JALの会員(JALカードやマイレージバンク利用者)へプッシュ配信で送るメールをターゲットによって内容を分けるといった施策を行っているという。

photo 国内線検索画面におけるターゲティング広告の表示位置。会員、非会員を問わずターゲティング広告を表示できるという
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