ユナイテッドアローズはなぜ好調か、その裏に「ユーザーを感動させる」新ITシステム新基盤「UA2.0」で、長期ITコストを最適化(2/2 ページ)

» 2014年12月04日 08時00分 公開
[岩城俊介,ITmedia]
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対策と方法:開発がブレないよう、最初に“憲法”を定義

 当初から、運用開始まで3年ほどの準備期間が必要なことは分かっていた。木下氏はまず「改革における“7つの憲法”」を定めたという。要件定義において、何を実施し、注力するか。長期に渡るシステムの構築で方針にブレが生じないようにするためだった。

photo UA2.0プロジェクトのコンセプトとして、開発にブレが生じないよう根本ルールを意味する“憲法”を最初に定めた

 基幹部分には、これまで個別に存在した商品調達系と在庫管理系のシステムを統合するため、日本マイクロソフトのERPソリューション「Microsoft Dynamics AX」を選定した。ERP(Enterprise Resource Planning)とは「統合基幹業務システム」や「統合業務パッケージ」などと呼ばれ、これまで個別だった業務システムを統合管理するためのソリューションだ。

 基盤の選定まで、1次選定で主要ERP候補の19社から7社に、2次、2.5次選定で2社まで絞り込み、

  • アーキテクチャ:オープン性があり、新技術や構造の拡張性に優れている
  • パートナリング:戦略パートナーとして、開発や運用品質を長期に渡ってコミットしてくれる
  • SIコスト:コストが破格的にリーズナブルなこと

 が最終評価の選定ポイントになった。標準機能ではできない要件もあるため、パッケージ/アドオンでカバーできる/しやすいものが望ましい。この前提・制約条件を把握するため事前評価ができたことも選定理由につながった。

photo UA2.0の基盤にDynamics AXが選定された経緯

 デザイン定義は、ユーザー、特に「店頭スタッフ」の気持ちを考えたユーザーインタフェースを目指した。

photo 当初よりユーザーに向けた開発方針を取り入れていた

 「商品調達のユーザーインタフェース(UI)画面は、写真がズラリと表示され、まずビジュアルが飛び込んでくるようにしました。業務管理システムでここまで写真がメインなUIはあまりないのではと思います。なぜなら、ファッションをやっている企業として、商品を常に見続け、トレンドを追い、お客様へ提案するスタッフが使うためのものだからです」(木下氏)

photo 商品管理・発注ツール画面のイメージ。タブレットでのタッチ操作なども考慮しつつ、スタッフが合理的に仕事が進めやすいよう、自分が担当のものだけを絞り込みできる機能なども付加した

効果と成果:ITコストを大きく改善、ユーザーから「感動した」の声

 UA2.0の導入で、どんな効果が出たか。

photo UA2.0稼働後、2014年8月時点の成果

 目的とした「カネについて(ITコストの構造改革)、「モノについて(基幹システムの刷新)」、「ヒト・組織について(IT体制戦略機能の強化)」のうち、2014年8月時点での評価は、

  • ITコスト:◎(期待どおりの結果で、目標達成見込み。さらなる打ち手を連発し、全方位IT化とITコスト低減の両方を目指す)
  • システム:○(大きく改善したが、Dynamics AXのポテンシャルをまだ生かせていないため開拓の余地がまだある)
  • IT体制:△(及第点 ここのみ不本意だが未達)

 であるようだ。特にITコストの削減は期待どおりで、目標達成レベルの効果があった。基盤の統合で、店と本社で売れ筋情報や商品戦略の共有も加速した。IT体制については、チーム間で限られたリソースをいかに効率的にするかとする課題は若干残った。本来やるべきことを注力できるよう、チームのワークバランスの考察も極めて重要だったという。

 具体的な機能については、

  • シングルサインオン:○(やりやすかった)
  • カスタマイズ性:○(必要なアドオンもしやすい)
  • 低コスト/ハイクオリティな開発環境:◎(安く、品質の高い仕組みが作れた)
  • ユーザー体験:○(多国籍化、ダイバーシティ化も進んでいる。言葉や体が不自由な人も使える──この考え方も極めて重要で、こういう取り組みも実施しやすい)
  • リッチなUI:△(前述したUIはサードパーティ製品を上に乗せて作った。これは少し大変だった)
  • 接続性:?(他社製品との連携については、?という評価。ExcelのスプレッドシートのようなUIも欲しい)

 の向上が果たせた。

photo ERPソリューション「Dynamics AX」で構築した、UA2.0のシステムリプレースイメージ
photo ユナイテッドアローズ 情報システム部業務システムチームリーダーの木下貴博氏

 まだ残るいくつかの課題、改善ポイントは当然、今後も取り組む。ともあれ、何よりの効果はユーザーであるスタッフからの評価と、今後の期待だったと木下氏は述べる。

 「スタッフから“とてもやりやすくなった。感動したよ”と声をもらいました。日頃のルーティン業務(商品発注や在庫管理)からでも感動は生まれるのです。店はお客様のためにある──を社是に、お客様に喜んでもらえることがユナイテッドアローズの事業の根幹にあります。システムからスタッフへ、そのスタッフが店のお客様へ。この感動のつながりができたことは、アパレル/小売業を展開する弊社にとって、何よりの収穫かもしれません」(木下氏)


photo 「利便性からも感動は生まれる」と提言したい(木下氏)
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