日立がチャレンジする「自動運転トラクター」は、日本の農業を救えるか?農業IT×ロボット(2/2 ページ)

» 2015年02月24日 08時00分 公開
[池田憲弘,ITmedia]
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日本や東南アジアでも生きる「自動運転技術」

 こうした自動運転トラクターは、将来的には東南アジアや日本への展開も検討しているという。日本の農地は狭くて複雑な形をしたものもあるため、完全自動化は難しいものの、運転の支援ならばできると菅原氏は話す。

 「日本の農業従事者は65歳以上の方が多く、トラクターの誤操作で事故を起こしてしまうケースもあると聞きます。農地の位置情報をあらかじめデータとしてインプットしておくことで、農地の端まで進んだら自動的に止まるといった操作ができるようになります。これで危ない目に遭うリスクを減らせるのです」

 日本と同様、東南アジアも農地が狭いなどの成約が多いため、自動運転技術を生かせる見込みがある。詳細な地図データがあれば、楽に導入できるといい、社会インフラ事業へ注力するITベンダーが増えているなか、ロボット技術を生かした農業ITソリューションが同社の大きな武器になる可能性は高い。

準天頂衛星「みちびき」の可能性を探る

 日立が今回の実証実験のように「みちびき」を利用したのは初めてのことではない。みちびきが打ち上げられた2010年以来、鉄道分野や移動カートなど、さまざまな利用方法を実験、検討してきたという。

 「2011年に起きた東日本大震災で、準天頂衛星が復興に役立つ場面がありました。GPSだけでは広範囲に位置測量ができなかった地域で、準天頂衛星を利用してそれができるようになったのです。どこまで津波で浸水したかといった情報が正確に分かり、震災復興事業の効率化につながりました」(菅原氏)

photo みちびき1基が日本上空に留まるのは約8時間。最低でも3基ないとすべての時間をカバーできない(出典:財団法人衛星測位利用推進センター)

 準天頂衛星は現在、2010年に打ち上げた1基のみ。軌道の都合上、1基のみでは日本上空に留まるのは1日のうち8時間程度となるため、本格的な実用はまだ難しい。すべての時間帯をカバーするには少なくとも3基は必要だ(バックアップを含めると4基必要)。日本政府も2011年9月に、2010年代後半を目標に準天頂衛星を3基打ち上げ、4基体制を構築することを閣議で決定している。

 「現在は2016年〜2017年にかけて3基の準天頂衛星を打ち上げ、2018年には4基体制になる計画になっています。将来的には7基まで増やす予定です。そうなればGPSに頼らなくても高精度な位置測量ができるようになるのです。また、GPS衛星からの信号を受信できない、屋内で位置情報を取得する技術開発も進んでいます」(菅原氏)

 日本発でアジア・太平洋地域への普及を目指す準天頂衛星システムは、新しい応用分野を切り開く可能性を多分に秘めている。近い将来、宇宙ビジネスが農業だけでなく、日本の産業全体を救う日がやってくるのかもしれない。

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