パブリッククラウドは銀行システムにどこまで広がるかWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2015年06月29日 17時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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勘定系にパブリッククラウドが適用される日は来るか

 まずは銀行システムの仕組みを紹介しておくと、大まかには「業務系システム」と「情報系システム」で構成される。業務系は勘定系、資金証券系、国際系、対外接続系といったシステムからなる。一方、情報系は経営管理、リスク管理・内部統制、営業支援、融資支援といったシステムからなる。

 少々細かい図になるが、銀行システムの全体像を図2に示しておく。ネットワークとしてはその名の通り対外接続系がハブの役割を担っているが、銀行システムの中枢となるのは、預金・為替・融資などの業務処理や勘定処理機能(資金決済)を果たす勘定系システムである。

photo 図2 銀行のコンピュータシステムの全体像(出典:FISC「金融情報システムとFISC安全対策基準について」資料より)

 小原氏がパブリッククラウドの利用状況として「まずは情報系システムから導入されており、今後、業務系システムに広がっていく可能性がある」と語っていたのは、こうした分類に基づいている。

 では、銀行システムの中枢を担う勘定系は、実際にどのような道具立てで、どんなベンダーが支援しているのか。まず道具立てについては高い信頼性が要求されることから、多くの場合はメインフレームが長年にわたって利用されている。ただ、その利用形態については、システム共同化やアウトソーシングが進んでおり、とくに地域銀行ではFISCによると約7割がそうした状況にあるという。この動きは今後、プライベートクラウドへ移行すると見ることもできよう。

 地域銀行のシステム共同化やアウトソーシングを請け負っているベンダーは、NTTデータ、日本IBM、富士通、日立製作所、NEC、日本ユニシスといった顔ぶれだ。一方、銀行システムの頂点ともいえる都銀の勘定系では、日本IBM、富士通、日立製作所、NECの4社が長年にわたって激しい勢力争いを繰り広げてきた。ただ、相次ぐ都銀の合従連衡によって最近では相互乗り入れする形になっている。それでも4社の間ではどこが主導権を握るか、“威信”をかけた戦いが続いている。

 こうした背景の中で、果たしてパブリッククラウドがどこまで銀行システムに広がっていくか。(2015年)現在、筆者の知る限り、国内で公開された導入事例は2つある。1つは昨年(2014年)、Amazon Web Services(AWS)がネット専門のソニー銀行のインフラに適用された事例、もう1つは日本IBMが6月23日に発表した筑波銀行の情報系システムにIaaS「SoftLayer」が適用された事例だ。さらに先述したFISCの調査レポートからすると、他にも公開されていない事例があると見られるが、いずれにしても旧来の銀行システムの業務系に本格的に適用されたケースはまだないようだ。

 しかし、いずれはその日も来るだろう。もっといえば、勘定系にパブリッククラウドが適用される日が来ることはないか。30数年来、折に触れて銀行システムの取材をしてきた経験からも、現時点ではありえないと見るのが常識だろうが、今後10年も経てば果たしてどうなっているか分からないのではないか。

 こんな暴論を小原氏にぶつけてみたところ、「勘定系に使われる日が来るかどうかは分からないが、今後パブリッククラウドが信じられないようなスピードで技術革新を遂げ、金融業界にとっても非常に信頼できるサービスになっていくことだけは確かだ」とのコメントを頂戴した。銀行システムが変わるインパクトは社会的にも非常に大きい。それだけにパブリッククラウドがどこまで広がるか。社会が変わる象徴として注目しておきたい。



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