スピードの向上や、きゅうりを傷めることなく機械に仕分けさせるには、開発が難しいしコストもかさむ。小池さんは「仕分け作業の完全自動化」という方針をやめ、「AIによる人間のサポート」というコンセプトに変更した。等級の判断のみをAIに任せ、箱詰め作業は人間が行うという“分業”にしたのだ。
開発した「試作3号機」は、ディスプレイ上に設置したテーブル(アクリル板)にきゅうりを乗せ、きゅうりが置かれた場所に等級を表示するという仕組みだ。CNNも5層に増やし、きゅうりの長さや表面積、太さといったデータも入力するようにした。季節ごとに変わる傾向の誤差を吸収(調節)できるようにするためだ。
教師データ用に集めた画像は2万8000枚。画像処理でテーブルにあるきゅうりの画像を切り出すようにしたため、一度に10本ずつ撮影でき、作業は1カ月ほどで済んだとのこと。8000枚の画像でテストを行ったところ、精度は約80%だったという。試しに小池さん自身が実務で使ってみたところ、仕分けのスピードが約40%上がった。
実環境で851本を判定したところ、正答率は73.3%だった。小池さんとしては「B品(品質が1ランク低いもの)の正答率が低い」ことが課題で、調整を続けていく考えだが、これ以上学習に利用するデータを増やしても、精度が上がりにくい状態になっており、コストパフォーマンスとの兼ね合いに悩んでいる。今後は、認識速度の向上にも取り組んでいくという。
人工知能の開発を続けて約2年。小池さんはさまざまな気付きがあったと振り返る。まずは「熟練の技術を仕様に落とし込むのは難しい」ということだ。基準が複雑であるため、上手く言葉に表すのが難しく、個人のこだわりによる部分もある。小池さんは、「だからこそ、現状のデータから学んでいくディープラーニングは適しているように思う」と強調する。
農業ならではの注意点もある。品種や季節、栽培方法によって作物の形は変わるという点だ。少なくとも1年間分はデータを集める必要があるし、各要素が変わったときの差を調整する仕組みも必要になるという。
ディープラーニングを使用するには、良質なデータを大量に集める必要があるため、100%に近いレベルの精度を出すのは、コストや時間がかかる作業だ。しかし「無理に完璧を目指さなくてもいい」というのが小池さんの考えだ。
「実際に7割〜8割くらいの精度でも、作業効率が向上しました。ディープラーニングは“天才”じゃなくても、ある程度の精度が出せる技術だと言えます。だからこそ専門家じゃない人間こそ、どんどん試すべきだと思っています」(小池さん)
現在はきゅうりの自動収穫を目指して、畑の中から栽培中のきゅうりを検出する実験をしたり、地元の町工場の人々にディープラーニングを教えたりしているとのこと。小池さんのあくなき挑戦とエンジニア魂は、個人のアイデア1つでイノベーションが生まれる可能性を感じさせる。
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