その後、日本マイクロソフトのオフィスなども見学したという大西市長は、システムの全面更改を情報システム部門に要請した。市長自身も「PCが出張で使えない」など、システムに対する不満がたまっていたそうだ。
さまざまなシステムがオンプレミス上で稼働しており、庁内にある6000台のPCは全てデスクトップ。他の政令指定都市と比べても、IT導入のレベルは低いという認識はあった。ちょうど5年ごとに訪れるサーバの契約更改時期だったこともあり、「変えるなら一気に」(大西市長)と変革に踏み切った。
入札はこれから行われる予定で、2019年4月までにMicrosoft 365を活用した基盤を構築する。現在は、各職員からシステムに対する要望を上げてもらっているという。日本マイクロソフトは、技術的なアドバイスを行うなど、コンサルテーションのような関わり方をしていく。
同市では、既に2017年から書類の電子化や窓口業務の改革などを実施しており、繁忙期には4〜5時間ほどになる待ち時間を40分程度にまで短縮した実績がある。今後はこれを20分以内にすることを目指す。5年間で47億円と、決して少ない投資ではないが、リターンも大きいというのが大西市長の見方だ。
「市民を待たせるということは、その分だけ、職員が処理に時間がかかっているということ。市民の待ち時間が減れば、職員も早く帰れるようになる。例えば、紙の文書を探すためにかかっていた時間を、新システムで10分短縮できたとすれば、年間約6億円の経費削減が見込める。職員に成功体験をしてもらうことで、組織風土も変わると期待している」(大西市長)
働き方改革には人工知能も活用する予定だ。マイクロソフトの生産性分析ツール「Microsoft MyAnalytics」を全庁職員が使用し、働き方を可視化するという。メールに費やした時間、会議中に関係ない作業(内職)をしている時間などを把握し、不要な会議の洗い出しや、コミュニケーションをとるべきメンバーの提案などを行ってくれる。世界中から集まったデータを基に、改革に向けて、定量的な議論を進めていくのが狙いだ。
教職員への施策については、全136校の市立小中高校の教職員に対し、Windows 10搭載デバイスを配布。業務にクラウドシステムを活用し、文書のデジタル化によって印刷文書とコストの削減、授業コンテンツの共有、テレワークの運用を進める。業務を効率化し、時間外労働を減らす狙いだ。日本マイクロソフトは、佐賀県でも同様のプロジェクトを進めている。
改革を進めるとともに、今後は、日本マイクロソフトと協力して、本プロジェクトを全国の自治体や教育委員会に伝えていきたいという大西市長。災害を機に、物理的なインフラだけでなく、IT活用においても熊本市は生まれ変わろうとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.