ここまで読み進めて、工事進行基準への対応は大変だとの印象を持ったかもしれません。しかし、工事進行基準の導入にはメリットもあります。
工事進行基準への対応でまず大きな負荷が生じるのは、営業現場でしょう。従来の商習慣を打破して、何を作ったらいくらになるか、仕様変更したらいくらかなどについて顧客の理解と納得を得なければなりません。しかし、それによって仕様があいまいなままソフトウェア開発がスタートし、後々お互いの認識違いによるトラブルが発生するケースが減ることが予想されます。また、顧客からの安易な仕様追加や仕様変更の要求が減る可能性があります。
開発プロジェクトの現場では要求定義の厳密化や無理な仕様追加・仕様変更が減ることにより、作業の手戻りや納期遅れが減少することが予想されます。これにより、デスマーチや不要な残業が減り、3K(きつい、厳しい、帰れない)といわれている職場環境の改善のきっかけになる可能性があります。
経営のレベルでは、プロジェクト進ちょく中もコスト管理を行うわけですから、赤字プロジェクトが減ることが期待できます。実際にこれまでのソフトウェア受託開発では、あいまいな契約とずさんなプロジェクトマネジメントが相まって、「終わってみれば赤字」という案件が数多くありました。
いま「メリット」と書きましたが、これらはすべて「本来、行うべきこと」です。これまでの悪しき慣習を一新し、健全なIT業界を築くチャンスだといえるでしょう。主体的に取り組む価値は十分あるといえるのではないでしょうか。
なお現時点で、工事進行基準には制度的にあいまいな点が残っており、これから詳細が明らかになる部分もあります。顧客からの要請、元請けソフトウェア開発会社からの要請、監査法人からの要請などを冷静に判断し、工事進行基準への対応を検討されることをお勧めします。
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