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» 2012年07月23日 19時35分 UPDATE

本田雅一のTV Style:”テレビの役割が変わった”という事実、変わらない事実

テレビという商品はあまりにも身近で、「みんな知っている」ことを前提で議論を始めると、大抵は話がすれ違う。なぜなら、テレビという製品の捉え方は、人それぞれ、かなり異なるからだ。

[本田雅一,ITmedia]

 結婚してまもなく2年だというのに、いまだ新婚気分の抜けない編集S氏は、同じITmediaの僚誌「@IT MONOist」の連載に書いたテレビ関連の記事をたいそう気に入ったらしい(編注:今回のコラムに新婚は関係ありません)。

 どんなテーマかというと、「日本のテレビがダメになったといわれるけれど、画質や音質が悪くなったり、他が肉薄しているというわけじゃないよ」という主旨のコラムだ。@IT MONOistは開発者、物づくり技術者向けの媒体。確かにテレビネタとはいえ、Lifestyleで語るには少々重いネタかとも思ったのだが、決して一般消費者にとって無関係な話というわけでもないだろう。これを一般消費者の位置に置き換え、今の状況を俯瞰(ふかん)してみた。

テレビに求めている要素は人によって異なる

 ”テレビ”というと、あまりにも身近で説明不要の商材ということもあり、普段からマインドセットを合わせることもほとんどない。テレビのことなんだから、みんな知っているよね? という前提で議論を始めると、大抵は話がすれ違う。なぜなら、テレビという製品の捉え方は、人それぞれ、かなり異なるからだ。極端な例で話をしよう。

 「テレビ番組なんか、ほとんど見ない。でも、作品性の高い映画やアニメは好きで、ドキュメンタリーも素晴らしい映像を伝えるものなら好き」なんていう方は、おそらく伝統的なAVファン、あるいはその素養がある人だ。筆者である私自身は、この分類に属していることを自覚しているし、新婚気分の抜けない編集S氏や多くのLifestyle読者もそうだと思う(編注:新婚は関係ありません)。

 もちろん、YouTubeだって見るし、話題になっていればニコ動やニコ生だって見ることもあるが、”テレビ”といったときに想像するのは、テレビというハードウェアそのものより、何らかの映像作品である。できれば大画面、高画質で見たい。こんな人には、スペックに加えて、画質や高音質であるかどうかが重要な評価点となる。

 先のコラムは、こうした評価基準において、日本のメーカーが追いつかれている、という事実はない、という話だ。もちろん、大型有機ELテレビの開発では遅れそうじゃないか! と言われればその通り。しかし、有機ELパネルを採用したからといって、それだけで高画質になるわけではない。パネルの持つ素養を活かし、高画質になるように作り込む必要がある。

ts_samoled02.jpgts_lgoled03.jpg 今年1月の「2012 International CES」に登場したサムスン(左)とLG(右)の55V型有機ELテレビ

 残念ながら国内での製品開発・生産をやめて、製品企画と販売に集中することになった日立のテレビを見ると、このあたりのことがよく分かる。日立の“Wooo”シリーズは、自社製パネルをあきらめて他社製パネルを使いはじめたとたん、素晴らしい画質のテレビを連発し始めた。最終的なテレビの画質はパネルだけで決まるのではなく、セットを仕上げるメーカーによって異なるという良い例だ。

 ただし、テレビに求める要素は人によって異なる。「バラエティやニュースはたまに見るけれど、テレビよりニコ動やニコ生の方が面白いな」と思っている人たちにとって、テレビはニコ動/ニコ生と同列のメディアだ。むしろ、「テレビはまったく見ないけれどニコ動だけは見ている」なんて人の方が多いのではないだろうか。たまに見る、画質なんてあまり気にする必要のないテレビ番組が、どうしても高画質でなければイヤか? というと、コダワリがなければなんでもいいや、となるのは致し方ない。そもそも、販売されているテレビの大多数が似たようなスペックとなれば、なおさら“高画質”というところに注目がいかない。

 また、中には「ネットばかり見ていて、そもそもテレビを見ようと思わないよね」という人たちもいるだろう。アスキー総研の調査によると、一週間のテレビ視聴時間は減少傾向にあるという。また、NHK放送文化研究所が昨年発表した「国民生活時間調査」報告書によると、テレビをまったく見ない人と長時間視聴する人(5時間以上)の双方が増加しており、テレビを見る人/見ない人の差が広がっているといった結果もある。

ts_nhk01.jpg 出典:NHK放送文化研究所「平成23年度国民生活時間調査」より

 これらは極端な例だが、”テレビ”という商品の役割や生活の中での位置付けが変化していることだけは間違いない。MONOistのコラムで書いたのは、消費者のテレビに対するスタンスが変化し、またライフスタイルが多様化する中で、メーカーは従来と同じ”勝ちパターン”を繰り返そうとして、実はそのパターンが当てはまらなくなってきていた……という話だ。

 しかし、これの悩みはメーカーや業界、放送局などが持つもので、消費者は悩む必要はない。消費者は自分自身の生活スタイルに合ったものを選べばいいからだ。他人がどう思っていようと関係ない。いまどき「ニコ動ばかり見ているのは低俗だ」なんていう時代錯誤な大人はいないだろうし、「そんな画質ばっか気にしてどうよ?」と言われようと、大画面で見る映画やアニメが好きなら、自分のために貫き通せばいい。

 例えば、Youtubeやニコ動を大画面で見たいなら、対応のセットトップボックスを買ってくればいいだろう。テレビよりもずっと安価に手に入る(画質を気にする人はたぶんいない)。高画質なテレビが欲しいなら、安物を買わずに日本製の上位モデルを買う方が満足度は高いはずだ。

 テレビのようにニーズの幅が広く、人によって同じ製品に対する評価が変わりがちな製品の場合、世間の評判や動向に敏感になってもあまり得はない。重要なことは自分自身、あるいは家族のニーズを把握して、どんなタイプの製品が欲しいのかを見極めること。それさえシッカリできているなら、周りの評価なんて実にどちらでもいいことだと思う。

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