コラム
» 2006年09月04日 08時55分 UPDATE

金融・経済コラム:ホリエモン無罪大逆転はあるのか…?

堀江元ライブドア社長の公判が始まるにあたってメディア関係者から質問を受けたが、どうやら“ホリエモン”の影響力はまだ強く残っているようで……。

[保田隆明,ITmedia]

 とうとう、今日からライブドア元社長の堀江氏の公判が始まります。先週ぐらいからテレビや新聞などのメディア関係者の方々から受けた質問のうち、最も多かったものが、

「堀江さんが無罪になる可能性がなきにしもあらずなそうなんですが、いかがでしょう?」

というものでした。

 「え? そんな可能性はゼロでしょ」とお答えするのですが、しかし、心配そうにいろんな記者の方が、「でも、その可能性はゼロではないそうなんですよね……」と口を揃えて言うのでした。正直なところ、そうやってメディア関係者の方々から質問されるまで、堀江氏の初公判のことなんて完全に忘れていたのですが、テレビ番組表を見るといくつかのテレビ局では今日の午前中に初公判の特番を組むようです。そして、夕方と夜のニュースではおそらくトップニュースでしょう。

 一方、インターネット上では、この初公判の話、それほどには盛り上がっていません。

 私をはじめ、世間の皆様もおそらくライブドア事件はすでに終わったものであり、堀江氏は当然有罪判決と結論づけて、今やあの事件のことは風化しつつあると思います。にもかかわらず「無罪かもしれない」なんていう声が出てきて、テレビ周りで盛り上がっているのは一体どういうことなんだろうと不思議に思いました。

 無罪かもしれないという理由はいくつかあるようですが、いろいろと聞いていくとどうも堀江氏の弁護士が無罪判決もありうると発言していることが発端のようです。そういえば最近はあの弁護士の方がテレビに登場する機会が増えていました。そして、かつての堀江氏ばりの強気な発言をされています。一方、堀江氏が自宅にこもって公判対策をひたすら練っていたというのもすでに報道されているとおりです。

 強気の発言でメディアに取り上げられ、その大胆な言動をもとに世論を味方に付けていくというのは堀江氏の大得意とするところでした。その同じ戦略が弁護士を通じて行われているように見えます。ただ、それだけだとメディア関係者の方々が無罪もなくはないと思うには弱いかもしれません。

 もうひとつ考えうるのは、メディア関係者の人たちが過去数年間の堀江氏への取材を通じて、「この人は気に食わないけど何かをする男だ」「この人は好きにはなれないけど頭はめちゃくちゃいい」と思っていたことが影響しているかもしれません。つまり、そういう思いを持った経験上、今回の公判を前にして「無駄を嫌う堀江氏が本気で公判対策を練るのなら、もしかすると本当に勝つ抜け穴を探し出したのかもしれない」「あの堀江氏なら地検という権力にも勝ててしまうかもしれない」というような思いをひそかに持っているかもしれません。

 マスメディアでは、ここ数年間、時代の寵児と呼ばれた堀江氏をたくさん取材してきました。そして、彼の記者を馬鹿にしたような態度や歯に衣着せぬ発言にうんざりし、堀江氏逮捕の際にはどのメディアでもライブドアバッシングフェスティバルが行われていました。まだ逮捕されただけであり、有罪とは決まったわけではないという状況でしたが、ロンゲの堀江氏の上場会見、近鉄球団買収への乗り出し、そして、広島6区からの立候補の映像など、さながらライブドア追悼放送のような状態で完全に有罪確定の報道でした。それはメディア側の人たちによる、自分たちが馬鹿にされてきたことへの復讐にも見えました。

 そうして堀江氏に復讐したはずのメディア側の人たちが、今さら堀江氏に関して無罪もなくはないと心配するのは、それは近くで堀江氏のすごさを目の当たりにしてきた彼らならではの感覚なのかもしれません。つまり、いつのまにか深層心理では堀江氏に畏怖してしまっている状態なわけです。無罪もなくはないかもしれないという思いがどこかにある状態で番組が作られた場合、それを見る我々視聴者にもその思いが伝わってくるかもしれません。そしていつの間にか世論は堀江氏無罪もありえる! という論調になっていったり……?!

 そこまで考慮して堀江氏が対マスメディア戦略を数年も前から考えていたのであれば、それはまさに寵児。

 ところで、堀江氏の率いたライブドアは現代版のコングロマリット経営だったといえると思います。これはバブル崩壊まではやり、典型的な例はカネボウや商社で、あらゆるいろんな事業をくっつけていれば理由は分からないけど、触発が起きて全体的な企業価値が上がるだろうというものでした。堀江氏もかつては、「ライブドアの冠をつければどんな企業でも価値が上がる」と発言していました。そして、そのコングロマリット王国を建国するために株式交換でいろんな企業を買収してきたわけですが、それが今回の偽計取引、粉飾決算、風説の流布で脆くも崩れたわけです。

 結果的には崩れたものの、株高を利用して王国を築くというのは上場間もないインターネット・IT企業の成長の1つの形を見せてくれました。他のインターネット・IT企業も金融業を買収したり、異業種の買収に積極的でした。しかし、その流れは今年に入ってからはピタリと止まっています。少なからずともライブドアショックの影響があるでしょう。

 そして、その後新興市場の株価は7月まで低迷が続いていました。しかし、8月には、若干盛り返したようです。7月までの低迷過程で売り込まれすぎたというのが理由のようですが、盛り返した銘柄を見てみると、ライブドアショック前までに威勢の良かった企業も結構含まれているようです。これからインターネット・IT企業の株価は昨年のように年末に向けて全面高となるのでしょうか。

 それに対する答えとしては、ライブドアショックから7月までの半年間に、M&Aを利用したコングロマリット経営以外の成長の道筋を見出すことに真剣に取り組んだ企業とそうでない企業では、実は差は開いてくるのだと思います。いつまでも株価の回復&株式交換によるM&Aに夢を追い求める企業と、そうでない企業、それらが見えてくると株価の動きにも違いが出てくるのではないでしょうか。また、負の遺産をどれだけ早く清算できるかも重要でしょう。本来であれば買う必要のなかった企業を買収したような場合、早期の是正が求められます。

 株価がピックアップした8月でしたが、9月以降、2006年度後半はインターネット・IT企業の中では二極化が進むものと想像されます。

 映画「ターミネーター」の“I'll be back”という台詞を思い起こしながら、私たちは今日、堀江氏の初公判を見ることになりそうですが、一方で、株価低迷に悩んだ新興企業のうち、株価が本当にbackする企業がどれぐらい存在するのか、そしてそれらはどの企業かということも今後見ることができそうです。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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