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» 2009年09月16日 17時15分 UPDATE

「液晶技術者30年の夢」 シャープ、「次元の異なる」新技術で高画質パネル量産へ

「液晶分子の気持ちになって考えた」という新技術をシャープが開発し、新工場で全面的に導入。液晶分子の向きを任意に制御できるという「夢の技術」で、開口率が2割以上改善し、コントラスト比の向上で締まった黒を表現できるという。

[ITmedia]

 「シャープの液晶は変わる」──シャープは9月16日、液晶パネルの性能と生産性を高める世界初の技術を開発し、10月から稼働する堺工場(堺市)に全面的に導入、量産を開始すると発表した。液晶分子の向きを紫外線を使って高精度に制御する技術で、研究室レベルの技術を量産レベルに引き上げた。画質と省エネ性能を高めた新パネルとして同社製テレビなどに搭載していく計画で、2010年度には同社パネルの大半が新技術を採用したものになるという。

 新技術は「UV2A」(Ultraviolet induced multi-domain Vertical Alignment、ユーブイツーエー)。紫外線を液晶分子に照射することで、これまで不可能だった液晶分子の「配向」を任意に制御可能にする世界初の技術だ。

 同技術を採用することで、コントラスト比を5000:1と従来比で1.6倍に向上させ、液晶ディスプレイの弱点と言われる「沈み込んだ黒」の表現が可能になったという。また光利用効率(開口率)を20%以上改善でき、その分バックライトを削減できるため、省エネ化も可能。応答速度も従来から倍の4ミリ秒以下に高速化する。画素構造をシンプルにできるため、生産性も高められるという。

 稼働開始が目前となった堺工場で全面的に導入するほか、亀山第2工場(三重県亀山市)も順次切り替えていく方針。具体的な商品化計画は明らかにしていないが、10年度には堺工場産パネルのほとんど、亀山第2工場の大部分が新技術によるパネルになるという。

液晶分子の「配向」制御

 液晶パネルは、米粒のような形をした液晶分子の配向(液晶分子の向き)を画素ごとに変化させ、通過するバックライト光の量を制御することで映像を表示している。このため、配向の制御は液晶ディスプレイの表示に不可欠だ(シャープのWebサイトによる液晶ディスプレイの原理)。

 シャープの「ASV液晶」など、VA(Vertical Alignment)方式による液晶ディスプレイでは、電圧をかけない状態では分子が水平になっており、偏光フィルターと組み合わせることで光を通さない(非表示状態)。電圧をかけると分子の配向が水平になり、光が通過する(表示状態)。VA方式のほかに、液晶駆動方式としてTN(Twisted Nematic)方式、IPS(In-Place-Switching)方式が利用されているが、各方式の違いは液晶分子の配向の動かし方の違いに基づいている。

photo VAで使っているリブ・スリット法

 シャープによると、VA方式では配向制御技術として「リブ・スリット法」を使っている。液晶分子を閉じこめたサンドイッチ状の内側の表面に三角柱状の突起(リブ)を設け、この形と電界効果を組み合わせて配向を変化させるもので、画素上にリブとスリットを作製するためこう呼ぶ。配向の動きを複数化して広視野角化する「マルチドメイン」(配向分割)に適しているほか、大面積でも均一化しやすいメリットがあるという。

 一方、画素にとっては邪魔になるリブ・スリットを設ける仕組み上、光がその分ケラれて開口率が低くなるデメリットがある。またスリットからバックライトの光がわずかに漏れてしまうため、自発光式のPDPなどと比べてコントラスト比が低くなる(黒が明るくなってしまう)という欠点や、応答速度の高速化、リブ・スリット作製によるプロセスの複雑化といった課題がある。

「従来技術の課題を全て解決」

 UV2A技術は、こうした「従来技術の課題を全て解決する」(水嶋繁光研究開発本部長)という。

photo 新技術の概要=ニュースリリースより

 最大の特徴は、配向制御に紫外線を使う点だ。独自開発した特殊材料を、液晶分子をサンドイッチする「配向膜」としてガラス基板上に塗布する。配向膜から伸びている高分子は、紫外線を照射すると照射方向に向く性質がある。これを利用し、紫外線を照射して高分子を配向させると、高分子にそろえられる格好で液晶分子が配向する──という仕組みだ。

 光の照射方向を変えることで、液晶分子の向きをコントロールできる上、精密かつ均一に制御させることにも成功。液晶分子は長さ2ナノメートル(2000ピコメートル)の米粒状だが、この向きを±20ピコメートルという精度で制御できるという。垂直配向/水平配向の制約がなくなり、微小領域ごとに分子の傾きを変えることができ、マルチドメイン化も技術的に制約はないという。

 画素上にリブ・スリットを形成する必要がなくなるため、開口率が「少なくとも20%は向上する」。光の利用効率が上がった分バックライトを抑えることで、液晶モジュールレベルでは開口率の向上率と同程度の省電力化が図れるという。スリットからの光漏れもなく、コントラスト比が向上し、締まった黒の表現も可能に。紫外線照射で一斉に配向が変わるため、応答速度はドミノ倒し的に配向が変わるリブ・スリット法と比べ高速化する。

 生産プロセスも簡略化。リブ・スリット法ではリブとスリットをフォトリソ法で形成する必要があったが、この工程を省くことができ、生産性が向上するとしている。

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「液晶分子の気持ちになって考えた」

photo 液晶技術の変遷。UV2Aは「第10世代に向けた新技術」

 「技術者が液晶分子の気持ちになって考えた新技術だ」──同社の井淵良明副社長はこう話す。液晶テレビの市場を開拓した同社だが、現在は画質、環境性能、生産性を同時に満足させる次世代パネルが要求されているとして、「従来とは次元の異なる技術の開発を進めてきた」という。「液晶の歴史に残る技術開発だ。液晶のシャープだからこそできた」

 新技術は紫外線によって液晶分子を精密に配向させるため、同社は「光配向制御技術」とも呼んでいる。水嶋本部長によると、配向の任意制御は学会レベルでは発表はあったが、量産化は初めてという。「わたしも長年液晶技術者をやっているが、30年以上にわたって夢見てきた技術だ」。同社の液晶技術の蓄積をもとに「10年近く前から積み上げてきた」という。

 堺工場、亀山第2工場に全面導入し、外販パネルも含めて10年度には両工場産パネルのほとんどが新方式になるという。そう遠くない将来に実際の製品が店頭に並びそうだ。

 記者会見会場に展示された新パネルと従来パネルで同じ映像を見比べてみると、夜景などで新パネルは明らかに黒の締まりが向上していた。特に画面の左右から見た場合、従来パネルでは夜景の黒が白っぽく見えてしまっていたが、新パネルでは黒いまま表示。部屋を暗くしたホームシアターなどでは大きな違いが出そうな印象だった。

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