Microsoftが強大な一枚岩的組織として、競争を勝ち抜き、市場シェアを維持し、稼いだ現金を数えるだけで満足していたのは、それほど昔のことではない。長い間、この方針は同社にとってうまく機能した。Windows部門は活気に満ちていた。この事業はMicrosoftの一角にしっかりと根を下ろしていた。それは同社の黄金時代だった。
しかし突然、すべてが崩れだした。Googleがネット上で圧倒的な市場シェアを確保し、Microsoftが追いかける立場になったのが、事の始まりだ。MicrosoftはWindows Vistaの投入で、まれにみる販売不振を経験した。企業ユーザーはWindows XPにしがみついていた。それどころか、Mac OS Xに乗り換える企業もあった。コンシューマーでさえも、Microsoftの最新OSに移行するのを嫌がった。Appleはこの機に乗じて、同社から若干の市場シェアを奪った。突如としてMicrosoftの足下がふらつき始めたのだ。
当初は、こういった非常に現実的かつ非常に危険な問題に立ち向かうために、Microsoftが何をしようとしているのか、はっきりしなかった。そのパワーと規模に物を言わせて、力ずくで頂点への復帰を目指そうとするのだろうか。それとも、すっかり萎縮してしまい、市場での地位を失ってしまうのだろうか。あるいは、イノベーションを推進しユーザーが、これまで同社から期待したことがないような高品質のサービスを通じてその地位を奪還するのだろうか。
しかしここにきて、答えがはっきりしてきたようだ。支配的地位を取り戻すためにMicrosoftが選んだ道はイノベーションだ。
この問題に関する議論は当然、Windowsから始めなくてはならない。Windows VistaはMicrosoftにとって悪夢だった。Vistaではすべてが裏目に出た。同OSのリリースに際してMicrosoftは大風呂敷を広げた。これまでで最も高機能なWindowsバージョンという触れ込みだった。しかしふたを開けてみたら、話とは大きく食い違っていたのだ。MicrosoftにとってはVistaは失敗だった。
MicrosoftはVistaを改善したり、同OSをエンドユーザーに押しつけたりしようとするのではなく、Windowsでは異例ともいえることした。ユーザーが同社に期待していた以上の改善を施したのだ。10月22日に店頭販売が開始される予定のWindows 7は、何年もの間、Microsoftから提供されたことがないような極めて斬新で魅力的な機能を備えている。
そのことが最も顕著に現れているのが、Windows 7のXP仮想化モードだ。Windows 7ユーザーは互換性問題を心配せずに、ほとんどすべてのソフトウェアと周辺機器をWindows 7で利用できるのだ。Windows XP上で動作したものはほぼ例外なく、この仮想化プラットフォームを通じてWindows 7上でも動作する。ユーザーはマウスを数回クリックするだけで、Windows 7上でWindows XP環境を作り出すことができるのだ。
もう1つの重要な新機能がOSのタスクバーだ。これは小さな変更のように思えるかもしれないが、Windowsのナビゲーション環境を大幅に改善するものだ。Windowsシステムを素早く検索して必要なものを見つけ出すための機能が、従来のWindowsでは決定的に欠落していたのだ。また、Windows 7のマルチタスキング機能も、Mac OS Xに組み込まれているものよりも明らかに優れているようだ。
Microsoftの検索エンジンBingは、オンライン検索市場の様相を一変させた。Googleは長い間にわたって市場を支配し、同社を脅かす有力なライバルは存在しなかった。しかし素晴らしい機能を提供するBingがリリースされたことで、GoogleはMicrosoftが獲得する検索シェアを抑えるために何らかの作戦を練る必要があるかもしれない。
BingがGoogleを打ち負かす可能性は少ないが、幾つかの斬新な新機能のおかげで、BingはGoogleから多少なりとも市場シェアを奪うのに成功している。実際、Bingの市場シェアは約10%に達している。数年前までは、Microsoftがインターネット上でこれほどの成功を達成するというのは考えられなかったことだ。
この成功の最大の要因は、Microsoftが単なる検索結果だけでなく、それ以上の機能の開発に取り組んだことにある。Microsoftの「Bing & Ping」機能は、検索結果を共有するための素晴らしい方法だ。さらに同社は先週、欲しい製品を簡単に見つけることができるビジュアル検索機能を提供すると発表した。Bingのホームページの背景にある動的イメージも評判がいい。その上、検索結果の精度も、わたしの経験では非常に高い。
Microsoftはいきなり革新的な企業になったわけではない。同社は以前から、さまざまなアイデアを打ち出してきた。しかし今年はMicrosoftにとって素晴らしい年になったようだ。ソフトウェアをリリースして誰かが買ってくれるのを待つだけでなく、それ以上のことができることを同社は示したのだ。最近では、Microsoftはイノベーションを追いかけるのではなくリードしている。そしてそれは称賛すべきことだ。
企業向け情報を集約した「ITmedia エンタープライズ」も併せてチェック
Editorial items that were originally published in the U.S. Edition of “eWEEK” are the copyrighted property of Ziff Davis Enterprise Inc. Copyright (c) 2011. All Rights Reserved.
Special
PR