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» 2013年05月24日 11時00分 UPDATE

人工知能がサッカー選手を育てる時代に? 実証進む「行動データ活用」の世界

人工知能で人の行動データを分析すれば、よりよい働き方や生活の仕方を見出せるはず――そんなSF映画のようなテーマに取り組む研究所を取材した。

[本宮学,ITmedia]

 人工知能で人の行動データを分析すれば、よりよい働き方や生活の仕方を見出せるはず――そんなSF映画のようなテーマが今、実現に近づこうとしている。

 例えば、店舗の来店者がいつどこで立ち止まり、接客を受け、何を購入したか。また、その間に従業員はどこで何をしていたか――こうした情報を取得し、POSデータと組み合わせて複合的に分析すれば、店員のどのような行動が売り上げアップにつながるかといった相関性を見出せる可能性がある。

 こうしたデータ分析を行う役割として、多くのIT企業が注目しているのが「データサイエンティスト」という職業だ。だが、膨大かつ多様なデータの中から目的達成につながる指標をピンポイントで探り当てるのは簡単ではない。また、人材不足を懸念する声もある。

 そこで、データ活用に取り組む1社である日立製作所が研究を進めているのが、アルゴリズムによって指標の生成を自動化するというアプローチだ。同社の中央研究所でアルゴリズムの開発に取り組む研究員に、取り組み内容と実証実験の成果を聞いた。

人工知能が見出した、ホームセンターの“スイートスポット”

 「データからどんな知見を得たいかというニーズは、企業によって異なります。それを毎回人手で対応していたら大変なので、ビッグデータを使って人工知能を開発し、コンピュータに全て統計分析させようというのが最近のトレンドです」。日立製作所で分析アルゴリズムを研究している辻聡美さんはこう話す。

photo ビジネス顕微鏡を付けて説明する辻さん

 辻さんの研究チームでは、「ビジネス顕微鏡」と呼ばれる名札型のセンサー端末を使って人の行動データを集め、そこから目的(例えば売り上げアップなど)に結びつくデータを抽出するアルゴリズムを開発している。行動データから約6000種類の指標を自動で生成し、目的の指標と合わせて分析することで、人間が思いつきにくく、かつ業績向上につながる結果が得られるようになったという。

 例えば、同社がホームセンター事業者と共同で行った実証実験では、来店者と店員の合計300人にセンサーを付けてもらい、それぞれの行動とPOSデータの関係性を分析した。すると、店舗内のある場所(辻さんはこれを「高感度スポット」と表現する)に店員がいる状態と顧客単価との影響関係が見つかり、実際にその場所に店員を配置したところ、顧客単価が約15%アップしたという。

 「今ではデータで人の行動を可視化するだけでなく、目的達成のために何をしたらいいかという提案もできるようになってきました」と辻さんは話す。

 「理由は後から推測することしかできませんが、“誰のどの行動が売り上げとつながったか”という結果はアルゴリズムを通じて出てきます」(辻さん)。売り上げと連動する行動は店舗や条件によって異なるが、「データを取ってみれば、その店舗に合った改善施策を提案できる」という。

サッカー選手の育成にもデータ活用 柏レイソルが実証実験

photo ライフ顕微鏡

 分析アルゴリズムの適用分野は、店舗の売り上げ増加といったビジネス面だけにとどまらない。同社はJリーグチームの柏レイソルと協力し、アカデミー所属の若手サッカー選手の育成にセンサーデータを活用する実証実験も進めている。

 そこで用いるのは、「ライフ顕微鏡」というリストバンド型のセンサーデバイス。この端末では3軸の加速度データを取得でき、その分析を通じて装着者がいつどのような行動をしていたかを可視化することができる。

photo 田中さん

 柏レイソルは2012年、ユース選手に2週間以上にわたってライフ顕微鏡を装着し、日々の行動を可視化する実験を行った。その結果、選手1人1人のライフサイクルが分かったほか、実験期間中は練習前に全ての選手が必ず昼寝して休息をとっていたことも分かったという。「これはデータを取ってみるまでは監督も知らない事実でした」と、ライフ顕微鏡の研究を担当している田中毅さんは話す。

 また、トレーニング時の加速度データも収集し、選手のポジションごとの動き方の違いなどを可視化した。今はこうしたデータを基に「“いい選手の動き”を可視化することを目指し、分析アルゴリズムの研究を進めている」(田中さん)という。

スマホの普及も追い風に――研究者が描く未来とは?

 上記2つの実験ではそれぞれ専用のセンサー端末を用いるが、同社が開発している分析アルゴリズムは端末の種類を問わないという。つまり、今後は個人所有のスマートフォンなどで集めた行動データにも、分析アルゴリズムを適用できる可能性もある。

 「われわれはセンサー端末を販売したいわけではなく、サービスビジネスの提供を中心に考えています」と辻さんは話す。アルゴリズムを開発しておけば、今後さまざまな端末で集めた人の行動データを生かし、ビジネスの強化や生活の見直しに役立つサービスを提供できるようになるという。

 「例えばスポーツ分野の分析アルゴリズムの研究が進めば、将来的には子どもの指導や教育などにも役立つはずです。また、データを使って人々が自分自身の毎日の暮らしを見直すことで、健康的に生活できる社会になるのではと思います」(田中さん)

 「人のどんな行動が売り上げに結びついているか分からないと、経営者は利益を上げるために従業員をロボットのように働かせがちになってしまいます。行動データの分析を通じ、24時間働くよりもちゃんと眠ったほうが生産性が上がることなどを証明し、従業員の働きがいと組織の利益を両立する働き方を提案していきたいと思っています」(辻さん)

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