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「この世は生きるに値するんだ」 「風立ちぬ」の後をどう生きるか 宮崎駿監督、引退会見全文(1/9 ページ)

» 2013年09月06日 23時41分 公開
[岡田有花,ITmedia]
画像 宮崎監督

 「どうせまただろうと思われているんだろうけど、今回は本気です」──宮崎駿監督が9月6日に会見し、長編アニメ作品制作からの引退を表明した。

 会場となった都内のホテルには600人以上の報道陣が詰めかけ、フランスやイタリアなど海外メディアも取材に訪れた。

 会見には宮崎監督と鈴木敏夫プロデューサーが出席。スタジオジブリの星野康二社長が司会を務めた。1時間半にわたる会見のすべてが質疑応答に割かれ、宮崎監督は、時にはジョークを交えながら、質問に1つ1つ丁寧に答えていた。会見の全文書き起こしは以下の通り。会見のノーカット映像はYouTube(ANN)ニコニコ動画で。

「今回は、本気です」

宮崎 あのー、「公式引退の辞」という。僕は「公式」まで刷らなくてもいいと思ったんですけど、そのメモをみなさんのコピーにしてお渡ししてありますので、質問をしていただければ何でも答えるという形で、ご挨拶にしたいと思うんですが、ひとこと。僕は何度も「もう辞める」と今まで言って騒ぎを起こしてきた人間なので、どうせまただろうと思われているんですけど……今回は、本気です(笑って頭をかきながら)。プロデューサーに代わります。

鈴木 おはようございます。いっぱいお集まりいただきましてありがとうございます。始まったものは必ず終わりが来ると、そういうものだと思います。僕の立場でいうと、落ちぶれて引退をするのはかっこ悪いと思ってましたんで、ちょうど今、「風立ちぬ」という映画が公開されてて、いろんな方に支持されている時にこういうことを決めた。これはまぁ、良かったんじゃないかなと、そんなふうに思っています。

 みなさん、「今後ジブリはどうなっていくんだろう」ということに疑問を持たれると思います。現在、11月23日に公開の高畑勲監督の「かぐや姫の物語」、これはみなさまにご心配をかけましたけれど、鋭意制作中で、だいたいめども見えてきましたので、11月23日に必ず公開するということを、みなさんにお伝えしたいと思います。引き続きまして、まだ企画その他は発表できないんですが、来年夏を目指して現在、もう1本映画を制作中であると。この2つをみなさんにお伝えしたいと思いました。

星野 それではこれから、マスコミのみなさんの質問をお受けしようと思います。

「僕は自由です」

――(朝日小学生新聞の記者)引退の報道を受け、子どもたちから感謝の言葉や「やめないで」という声が届いていますが、子どもたちに伝えたいメッセージは。

宮崎 うーん……。そんなにかっこいいことは言えません。何かの機会があったら、わたしたちが作ってきた映画をみてくだされば何か伝わってくれるかもしれません。それにとどめさせてください。

――これからやって行きたいと思っていることを具体的に教えていただければ。

宮崎 (「公式引退の辞」をさして)ここに、我ながらよく書いたなと思ったんですけど、「ぼくは自由です」と書いていますから、やらない自由もあるんです。ただ、車が運転できる限りは毎日アトリエに行こうと思ってます。それでやりたくなったものや、やれるものはやろうと思っています。まだこう、休息をとらなくてはいけない時期なので、休んでいるうちにいろいろ分かってくるだろうと思うんですが、ここで約束すると多分、たいてい破ることになると思いますので、そういうことでどうかご理解ください(笑)。

――「風の谷のナウシカ」の続編はこの先作られる予定はありますか。

宮崎 それはありません。

――(韓国の記者)韓国にも宮崎監督のファンがたくさんいると思います。韓国のファンにひとことお願いします。また、韓国で話題になっているゼロ戦の議論についてどういう考えを持っていらっしゃるか、お願いします。

宮崎 映画を見ていただければ分かると思っていますので、いろいろな言葉に邪魔されないで、今度の映画も見ていただけたらいいなと思います。韓国の方にも。

 いろんな国の方々が、わたしたちの作品を見てくださっていることは非常にうれしいと思っています。それと同時に、「風立ちぬ」の作品のモチーフそのものが、日本の軍国主義が破滅に向かっていく時代を舞台にしていますので、いろいろな疑問はわたしの家族からも自分自身からもスタッフからも出ました。それにどういうふうに応えるかということで映画を作りました。ですから、映画を見ていただけば分かると思います。映画を見ないで論じてもほとんど始まらないと思いますので、是非、お金を払って見ていただけるとうれしいなと思います。

――今後、ジブリの若手監督の作品を監修、アドバイスなどで関与される考えは。

宮崎 ありません。

僕の長編アニメーションの時代ははっきり終わったんだ

――「今回は本気です」とのことですが、今までと何が一番違うのでしょう?

宮崎 「公式引退の辞」に書いてありますけれども、「風立ちぬ」はポニョから5年かかっているんです。もちろんその間、映画を作り続けたわけではなくて、シナリオを書いたりとか自分の道楽の漫画を描いていたり、あるいは美術館の短編をやるとかいろんなことをやっていますが、やはり5年かかるんです。いま次の作品を考え始めますと、多分、まぁ、5年じゃ済まないでしょうね、この年齢ですから。そうすると、次は6年かかるか7年かかるか。あと3月もすればわたしは73になりますから、それらから7年かかると80になってしまうんです。

 僕はこの前、文藝春秋の元編集長だった半藤一利さんとお話してですね、その方は83でしたが、本当に背筋が伸びて頭もはっきりしていて、本当にいい先輩がいる、僕も83になってこうなっていたらいいなと思うもんですから、あと10年は仕事を続けますと言ってるだけでして、続けられたらいいなと思いますが、いままでの延長上には自分の仕事はないだろうと思っています。

 そういうことで、僕の長編アニメーションの時代ははっきり終わったんだ、というふうに、もし自分がやりたいと思っても、それは年寄りの世迷い言であるというふうに片付けようと決めています。

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