ITmedia NEWS > ネットの話題 >

「この世は生きるに値するんだ」 「風立ちぬ」の後をどう生きるか 宮崎駿監督、引退会見全文(6/9 ページ)

» 2013年09月06日 23時41分 公開
[岡田有花,ITmedia]

「同じことをいっぱいした」と言われるが……

――長編アニメで作りたい世界観は表現できましたか? もし悔いが残っているとしたらどのような部分でしょうか。

宮崎 その総括はしてません。自分が手抜きしたというふうな感覚があったらつらいだろうと思うんですけど、とにかくたどり着ける所まではたどり着いたというふうにいつでも思っていましたから、終わった後はもうその映画は見ませんでした。ダメなところは分かっているし、いつの間にか直っているとか、そういうことも絶対にないんで、振り向かないように振り向かないようにやっていました。

 同じことはしないっていう。「同じことをいっぱいした」って言われてますけど、同じことはしないつもりでやってきたんです。そういうことなんですが、お答えになっていますか?

バブル経済の時代は「頭にきていた」

――スタジオジブリを立ち上げた40代半ばごろから今まで、日本の社会はどう変わってきたとお感じになっているでしょうか。どんな70代にしたいとお考えでしょうか。

宮崎 ジブリを作ったときの日本のことを思い出すとですね、浮かれ騒いでる時代だったと思いますよ。経済大国になって日本はすごいんっていうふうにね、ジャパンイズナンバーワンとかね、そういうことを言われていた時代だと思うんです。

 それについて僕はかなり頭にきていました。頭にきてないとナウシカなんか作りません。ナウシカ、ラピュタ、トトロ、魔女の宅急便というのは、基本的に、経済は勝手ににぎやかだけど心の方はどうなんだとか、そういうことをめぐって作っていたんです。

 でも、1991年にソ連が崩壊して、それから日本のバブルもはじけていきます。その過程でですね、もう戦争は起こらないと思っていたユーゴスラビアがすごい内線状態になるとか、本当に歴史が動き始めました。

「ずるずるずる」と落ちていく

 で、今まで自分たちが作ってきた作品の延長上にこれは作れないという時期が来たんです。そのときに体をかわすようにですね、豚を主人公にしたり、高畑監督は狸を主人公にしたりして切り抜けた……切り抜けたなんていったら変ですけど多分そうです。

画像 「バブル崩壊が崩壊するところで引っかかった」ジブリを手で表現

 それから長い下降期に入ったんです。失われた10年は失われた20年になり、半藤一利さんは失われた45年になるであろうと予言しています。多分そうなるんじゃないか。そうすると僕らのスタジオは、経済の上り調子のところで、バブルが崩壊するところで引っかかってたんです。それがジブリのイメージをつくったんです。

 その後じたばたしながら「もののけ姫」を作ったり、いろいろやってきましたけど、僕の「風立ちぬ」までずるずるずるずると下がりながら、これは一体どこへ行くんだろうと思いつつ作った作品だと思います。ただ、このずるずるずるが長くなりすぎると、最初に引っかかってたナウシカ以降の引っかかりがもう持ちこたえられなくなって、どろっと行く可能性があるところまで来ているのではないかと。

 抽象的な言い方で申し訳ありませんが、僕の70歳というのは、半藤一利さんとお話したときに本当によく分かったんですが、ずるずるずると落ちてくときに、自分の友人だけではなくて、若い、一緒にやってきたスタッフや、隣の保育園にいる子どもたちの生きているところを、自分は横にいるわけですから、なるべく背筋を伸ばして半藤さんのようにきちんと生きなければいけないというふうに思ってますけど、そういうことだと思います。

――(中国の記者)ジブリの作品を中国で上映する可能性はありますか。

星野 ご存じの通り中国は外国映画の上映に規制があり、その本数が規制緩和で増えているとう状況はよく分かっているんですけど、またまだ、本格的に日本の作品を上映していく流れはできていないと思います。前向きには考えてはいますが、現時点では上映されている状況にはありません。

――宮崎監督が好きな作品や監督はいらっしゃいますか。

宮崎 さっきもお話したように、僕はいまの作品を全然みていないので、ノルシュテインは友人だ、ピクサーのジョン・ラセターは友人です。イギリスのアードマン(Aardman Animations)にいる連中も友人です。みんなややこしいところで苦闘しながらいろいろやっているという意味で友人です。競争相手ではないと僕はいつも思っているんですけど。それから、いまの映画、見てないんですよ本当に。申し訳ないんですけど、だから……すみません。

 高畑監督の映画は見ることになると思いますが、まだのぞくのは失礼だからのぞかないようにしています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.