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「まさかここまでニーズがあるとは」 プロが“あなたに似合う服”選ぶ「airCloset」急成長の裏側(2/2 ページ)

» 2016年05月30日 11時00分 公開
[山崎春奈ITmedia]
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 自分の好みで服を購入すると、同じような店で同じようなテイストばかりになってしまう。1つ1つは気に入っていても、毎日のコーディネートに新鮮さを感じず、「着たい服がない」――。妻と同じような悩みを抱える女性は少なくないのでは? と考えた天沼代表は「プロの目で選んだファッションアイテムを届けるレンタルサービスはどうか」という発想に行き着いた。

 女性向けのファッションサービスだが、創業チームは全員男性。自分のニーズから出発したものでなく、社会に求められており、ITの力を活用してライフスタイルを変えられる可能性があると見込んで創業の道を選んだという。

 「最新の服を借りられるというよりも、新たなファッションとの出合いを演出するサービス。お店を回る時間も雑誌を読み込む時間もなかなか取れない働く女性に対し、いつもと違う自分、新しい自分を楽しめるファッションを提案したい」(天沼代表)

photo スタイリングの1例
photo ユーザーの好みに合わせつつ“普段は着ない”アイテムも届く

 14年5月に本格的に開発に着手し、夏に会社を設立。周囲の女性にヒアリングしながらサービスを設計していった。15年2月のオープンを見据え、前年10月に事前登録をスタートしたところ、当初の予想の10倍以上の登録が殺到。サービス開始直前では2万5000人にまで増え、一時は登録を中断する事態にも陥った。サービス開始後も、初回の発送までに数カ月の待ち時間を必要とするほどの盛況が続いた。

 「必ずニーズがあると確信して始めたものの、予想以上の反響で『まさかここまでとは』と驚き、期待に応えなければと感じた。サービス開始時にサーバダウンしてしまったのは大きな反省。現在は申し込みからサービス開始までの期間は数週間程度になっているが、インフラ面、人材面の強化は今後も注力していきたい」(天沼代表)

ファッションとITの距離を近付ける

 パーティードレスやかばんなど、アイテム単位でレンタルできるサービスはあっても、普段着のコーディネートを頼めるサービスはこれまで多くなかった。天沼代表はその理由を「ファッションとITの心理的な距離が遠かったことと、物流管理のオペレーションやシステムが必要なこと」と分析する。

 天沼代表を含む創業チームはファッション業界につてがあったわけではなく、友人の紹介などでゼロから関係を構築していった。ブランド側の課題やニーズを聞く中で「ITやインターネットを活用したい気持ちはあるが、ECサイトでの販売止まり」というケースは多かったという。

 顧客側の意識の変化も大きいとみる。スマートフォンの普及でネット注文のハードルが下がり、従来は実際に店舗で商品を見たり試着したりが前提だった服選びをディスプレイ越しにすることは当たり前になりつつあるという。シェアリングエコノミーやサブスクリプションサービスに対する理解や認知も広がり、市場として立ち上がり始めた「時代の流れ」も感じると天沼代表は話す。

photo SNSでの口コミも大きい。Instagramで届いたアイテムやコーディネートを共有するユーザーも

 課題の1つだった物流面では、倉庫事業を手掛ける寺田倉庫と連携し、独自のオペレーションシステムを構築。約5万着を個別にID管理し、仕入れから商品管理、流通までを一貫して行っている。シーズンごとの新作を日々入荷し、常に最新のファッションをそろえるために、サービス開始時までに効率のよい管理・流通体制を共同構築できたのは大きいという。「物流のプロのノウハウがあってこそ。自社だけでは到底できなかった」(天沼代表)。

リリース1周年を前に約10億円の大型資金調達

 サービス開始から1年を前にした今年1月、ジャフコ、寺田倉庫、クリーニングサービス「ホワイト急便」を展開する中園ホールディングスなどから約10億円の資金を調達。サービス規模拡大を見込み、インフラ投資、仕入れの強化、人材の強化に投じる予定だ。倉庫オペレーション、クリーニングオペレーションの品質向上を目指し、出資元との連携も強化していく。

 まずは現状通り女性向けにフォーカス。Webサイトの新機能開発などに力を入れ、リアル店舗と連動したO2O(Online to Offline)施策にも取り組んでいきたいと天沼代表は話す。長期的にはメンズやキッズ、シニア向けなどジャンルの拡大や、海外展開も検討したいという。

 2020年までに、ターゲット年代の約2.5%を占める会員数17万人を目指す。「それくらいの数字になれば、人々のライフスタイルに浸透している、生活を変えていると言えるのではないか」(天沼代表)。

 「世の中にあふれる情報をSNSやアプリで自然にキュレーションするようになったように、ファッションでも自分好みのもの、似合うものに出合うコストを下げていきたい。airClosetが目指すのは、衣服の購入からレンタルへの促進ではなく、手元に大事に持っておきたい大切な1着に出合い、満足して購入してもらうこと」(天沼代表)

photo 天沼聰代表
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