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アスナさんは“キリト君の心”をハックしている? 「劇場版ソードアート・オンライン」の危ないシーン新連載:アニメに潜むサイバー攻撃(2/5 ページ)

» 2018年05月22日 08時00分 公開
[文月涼ITmedia]

バーチャルアイドル「ユナ」の危険性?

F: まず、バーチャルアイドル「ユナ」(※)の存在ですね。私と同じ年代の方はご存じかも知れませんが、過去にバーチャルなアイドルやシンガーが登場した作品としては、「マクロスプラス」の「シャロン・アップル」がありました。SAO OSの伊藤智彦監督がインタビューで答えていたと思うのですが、ユナはシャロン・アップルと明確に異なるものとして描かれたそうです。

(※)ユナ……SAO OSに登場するARアイドル。ARデバイス「オーグマー」を装着したユーザーからは、現実世界に重なるようにして見える。AI(人工知能)を搭載し、主人公たちが挑むARゲーム「オーディナル・スケール」の歌姫としても活躍する。

photo バーチャルアイドル「ユナ」(c)2016 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO MOVIE Project

 シャロンは映像上の表現でも変幻自在でなかなか挑戦的で、固定的な姿を持ちません。そしておそらく「見ている者、一人一人の望む姿に見え」、観客それぞれの願望にフィットして意識を取り込んでしまう存在だったと思います。極めて中毒性が高く、ARアイドルの姿を媒介にした、AIベースの洗脳ドラッグプログラムのような性格を帯びています。

 それに対してユナは、同様にAIではあるものの、固定的な形を持ちます。存在意義は規定されていますが、自らの意志と個性のようなものも持ち、観客それぞれに歩み寄ることはしません。

K: ユナ自身に危険性はない?

F: はい。シャロンはシャロン自身が「人間の価値観で規定するところの悪意」を持っているのに対し、ユナはいわばアイコンとして人々をわなへと誘引するのに使われている存在。ユナが登場した劇中のボス戦や終盤のコンサートのほうが悪意のプログラム、サイバー攻撃でいえば「水飲み場攻撃」をするためにマルウェアを仕込んだWebサイトみたいなものです(※)。ユナが登場しないボス戦では、戦闘やその結果得られるポイント(経験値)が誘引要素になりますが。

(※)ストーリー終盤、ユナのコンサートに参加し、会場に閉じ込められたプレイヤーたちは、次々出現するボスモンスターに襲い掛かられた。

K: なるほど。

photo ユナは人々を誘引するために使われた存在だった(c)2016 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/SAO MOVIE Project

F: ユーザーが興味を持つものを使って引きずり込む手法は、標的型メールを含めサイバー攻撃では定番です。今後VR(仮想現実)が普及すれば、SAOのように命や記憶が取られないまでも、同様の攻撃パターンが登場するでしょう。

K: 例えばどんなものが考えられますか?

F: 別の意味で命に関わるかも知れませんが、イスラム過激派に見られるテロリスト勧誘の手段として利用される――といったことはあり得るかなと。ただPlayStation VRのように供給されるソフトのマーケットがきちんと管理され、コンテンツが審査されているプラットフォームでは起こりにくいでしょう。

 一方、どんなプログラムでも拾ってきて実行できる余地のある環境ならば、私が攻撃者なら必ず狙います。VRの没入感は現時点でも相当高いですし。

 ただ先日VRコンテンツの開発者から聞いたのですが、現時点のVRヘッドセットは数時間に渡って装着することは難しいので、こういった手法を今すぐ実現するのはなかなか難しいだろうとのことでした。疲れてしまい定期的に現実世界に引き戻されるので。

K: 逆に言えば?

F: 長時間装着していられる快適なヘッドセットが出て、それこそ1日中ダイブしていられるようになると可能性が高くなるでしょう。脳波などを読み取るBMI(ブレイン・マシン・インタフェース)でさまざまな操作ができるようになるとさらに……。

K: 寝たまま付けっぱなしにできると、もはやSAOに登場したヘッドセット「ナーブギア」ですね。

F: そういえば劇中、黒幕がユナを操作するコンソールになっているコンピュータもしくは端末にアクセスするときに、マシンは起動しっぱなし、パスワード入力もなしに操作できるようになっていたのはよろしくありませんね。スリープ復帰時にはきちんとパスワード入力が必要な状態にしましょう。特に職場では。誰が触るか分かりませんから。

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