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» 2015年11月11日 21時58分 UPDATE

iPadを再定義するフラッグシップモデル:林信行が「iPad Pro」に見る新たな可能性 (3/5)

[林信行,ITmedia]

質実剛健、議論を呼びそうな「Smart Keyboard」

 iPad Proは、より大きく、高画質で性能も優れたiPadであることに加え、これまでのiPadにない2つの特徴を備えている。

 1つは本体と一体化して持ち運べるキーボード、Smart Keyboardが標準のアクセサリとして用意されたこと。そしてもう1つは、繊細な描画作業が可能なApple Pencilが純正オプションとして用意されたことだ。

 中には、iPad用の一体化できるキーボードやペン型入力デバイスは他社からもリリースされていたと指摘する人がいるかもしれない。だがそこはやはりAppleらしく、他社ではおよそできなかったであろうチャレンジにいくつか取り組んでいる。以下では、それを紹介しよう。まずはSmart Keyboardからだ。

Smart Keybordを装着したiPad Pro(右)とMacBook(左)

 iPadでは、故障や破損の原因となる機械的な機構を追加せずに、持ち歩くときは本体カバー、映画を見るときにはスタンド、何かの作業をするときには傾斜台として使えるSmart Coverという別売りオプションを用意し、2011年登場のiPad 2以来、製品そのものの特徴ともなっていた。

 今回登場したSmart Keyboardは、そのSmart Coverの特徴をそのまま継承して、キーボードのタイピング機能まで追加した製品である。実際、カバーとして使っている状態のときは、少し(キーボードを折りたたんだ分の)段差がついただけで、外に露出される部分、つまり液晶画面を保護するマイクロファイバー素材の面は見た目が変わらない。

カバーした状態のときは折りたたまれたキーボードの分だけわずかに段差がついているが、見た目はSmart Coverとほとんど変わらない

 一方、折りたたんでいたキーボードを折り返して露出すると、板状になったポリウレタン素材と完全に一体化したキーボードが現れる。実はこのキーボードは、水や汚れに強いポリウレタンの土台に、レーザーアブレーションという加工技術を使って凹凸をつけ、64個のキーを成形したようで、キーと土台部分は完全に一体になっている(そのためキーボード奥には空気抜きのためか小さなスリット状の穴が空いている)。

キーボードを折り返して出した状態

 厚さ4ミリのキーは、スペースバーの左右両端などを押してみても中にスプリング機構が入っている感じはしない(し、実際に入っていないようだ)が、しっかりとしたスプリング入りのキーを押すようなストローク感があり、なんとも不思議な感じだ。

カバーの部分と一体成形になっている。不思議な感触のストロークだ

キーボードの奥側に小さなスリット状の穴が空いている

 キーボードからの信号をiPad Pro本体に伝えるのは、新たに開発されたSmart Connectorというコネクタだ。

 わざわざ新しいコネクタを開発する必要があるのか、と疑問に思う人もいるかもしれない。ここからは筆者の想像でAppleに確認を取ったわけではないが、現在、iPadはIBMが協業して法人向けの営業を行っており、今後、政府機関や軍、金融機関など、情報の機密性が極めて高い場所で導入が進むことが考えられる。そうした場合、Bluetoothなどの電波を使ったキーボードでは、信号が傍受される危険がないとは言い切れない。おそらくそうしたことへの配慮があるのかもしれない。

Smart Connector

 また、すでに飲食店や小売店でも使われていることの多いiPadには、今後、レジ打ち用のキーボードや、ペアリングといった操作にわずらわされずに使えるバーコードスキャナといった個々の業務に特化した周辺機器ニーズも出てくるはずだ。Smart Connectorの規格は開発者にも公開されているようなので、今後、そうした業務用の周辺機器が、このコネクタ向けに登場することも期待できる。

 では、純粋にキーボードとして見たSmart Keyboardはどうだろう。正直、この点に関しては、いくつか議論を呼びそうなところもある。まず、第1にキーボードが米国仕様で、日本語キーボードが提供されない。

用意されるSmart Keyboardは英語配列のみ

 最初は「日本軽視ではないか」と不安になったが、その後、フランスをはじめヨーロッパのApple公式ページを見て考えが少し変わった。フランスで一般的に使われているキーボードは独自配列になっており、仮に公的機関へ機器を導入する際にはこの配列になっていることが求められたはずだ。しかし、公式ページの写真も米国式キーボードのままで、その下にはフランス語(グレーの文字)で、日本語ページと同じ文言(「iPad ProのためのSmart Keyboardは、英語(米国)キーボードのレイアウトのみに対応しています」)が書かれている。これはフランスのニュース媒体でも、すでに大きな議論を呼んでいるようだ。

 ただ、好意的に見れば、AppleがこのSmart Keyboardを通して、もう1度、キーボード文化を考え直そうと訴えているようにも感じる。

 デジタル機器上で扱う文字表現においては、Unicodeという世界にただ1つの標準がついに一般化した。このUnicode規格に盛り込まれたことで、日本の絵文字文化が海外の人に広がるといった面白い現象も起きている。

 一方で、キーボードはというと、世界各国でバラバラだ。おまけにファンクションキーやらESCキーなど、何のために使うのかハッキリしない余計なキーもただ慣習として引き継がれ続けている。アップルはこうした点を見直そうとしているのではないだろうか。

 左下に用意された「地球」のマークのキーを押せば世界各国語に対応できるユニバーサルなキーボードを提案しているようにも少し感じた。もっとも、そうした世界標準のキーボード配列に「はたしてアクセント記号も使わない米国キーボード配列が本当にベストなのか」と考えると筆者も疑問に思わないわけではない。

 なお、日本語とたまに英単語を入力する程度の人であれば、iPadで有効にするキーボードを英語用と日本語ローマ字入力の2つだけにし、この地球マークのキーで言語を切り替えてそれなりに快適に文字入力ができそうだ。「@」など一部記号の配置が違うため、MacとiPadの間でHands-offで行き来をする場合は悩むかもしれないが、これも慣れの問題だろう。

 Appleが、今後、そうしたアメリカ仕様をグローバルスタンダードと位置づけて、日本やフランスの公的機関でもこれを採用させる公算があるなら、これはこれで1つの考え方として評価したい。ただし、やはり導入が認められず、後から「かなキーボード」や「フランス語キーボード」版を出すのであれば落胆しそうではある。

 いずれにしても、Smart Keyboardのキー配列に関しては、製品発売後に、英語を話さない世界中の国々で大きな議論になるだろうし、日本の公的機関に導入すべきか否かについても議論がわき上がるだろう。その際にはAppleに公式な考えを述べてもらいたいところだ。

 なお、これまでのiPadのカラフルなSmart Coverを楽しみにしていた人には、Smart Keyboardが1色しかないのは、やや残念かもしれない。個人的にはキーボード面がグレーのほうが作業画面にも集中できるしいいと思うが、カバーとして露出する側の面にはカラーバリエーションが欲しかった気はする。

 なお、キーボードの配列など、やや強引な主張を貫くAppleのやり方に不満を持つ人もいるかもしれない。そういう人は、これまでのiPad同様にスマートカバーとBluetoothキーボードの組み合わせを使えばいい。筆者もその1人だが、日本語と英語の混在率が高い文章を入力する人にとっては「かな」、「英数」キーで言語切り替えができることは、かなり重要だ。アップルには、自社なりの主張は主張で認めるとしても、その主張を受け入れられない人のためのサポート(つまり、他社製キーボードの「かな」「英数」キーサポート)については、しっかりとケアをしてほしいところだ。

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