電力を高く売るための条件、少しでも安く使う方法解説/再生可能エネルギーの固定価格買取制度(2)

7月1日から始まった「固定価格買取制度」はメリットが多い。ただし電力を高く買い取ってもらうためには、発電設備などに関して条件がある。一方で電力を使う立場では電気料金に「賦課金」が上乗せされるためコストが増えるが、要件を満たせば減額が可能だ。

» 2012年07月11日 11時37分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

連載(1):「日本のエネルギー市場を変革する、新制度がスタート」

 予想通り7月1日以降、多くの企業が再生可能エネルギーを生かした事業の拡大に乗り出した。太陽光発電所(メガソーラー)の建設やスマートハウスの販売が加速する一方、製造業を中心に自家発電設備の増強が相次いでいる。今夏の電力不足への対策と同時に、再生可能エネルギーで発電した電力を高く売れる環境が整ってきたからだ。

 では実際に自家発電によって余った電力を高く買い取ってもらうには、何が必要なのか。新制度が適用されるための主な必要条件を整理してみよう。

発電能力によって決められた認定基準

 本連載の第1回でも説明したように、新制度では5種類の再生可能エネルギーそれぞれで、発電方法別に買取価格や買取期間が決められている(図1)。中でも買取量が多くなる見込みの太陽光発電を例にとって、適用条件を詳しく見てみる。

ALT 図1 発電方法別の価格と期間。出典:資源エネルギー庁

 太陽光発電の場合には、発電能力の大きさによって「10kW以上」と「10kW未満」の2つで条件が分かれる。前者はメガソーラーを含めて企業の設備が対象になり、後者は一般の家庭が対象になる。一般家庭の太陽光発電システムは標準的なもので4kW程度の発電能力の設備が多い。

 太陽光発電で作った電力を新制度で買い取ってもらうためには、主に3つの条件があり、このうち2つは発電能力の小さい10kW未満の設備に関するものである(図2)。まず仕様がJIS(日本工業規格)に準拠していること、余った電力を外部に供給できるように「余剰配線」になっていること、そして最も重要な条件が太陽光パネルの変換効率である。

ALT 図2 買取の対象になる発電方法の条件

 太陽光パネルの変換効率は発電能力が10kW以上の場合を含めて共通の必要条件になる。現在の太陽光パネルで一般的に使われている4種類(シリコン単結晶系など)に対して基準値が設定されており、新しい製品であれば問題なくクリアできるが、少し前に設置した太陽光パネルの場合は注意が必要だ。2009年から始まった太陽光発電の「余剰買取制度」の適用を受けている場合は新制度でも引き続き認定される。

 太陽光以外の再生可能エネルギーでも、発電能力などによって適用条件が設定されている。地熱だけは具体的な基準が設けられておらず、認定の自由度は高い。

電気事業者との契約が必要

 新制度の適用を受けるためには、これらの条件を満たした発電設備であることの認定が必要で、全国の10地域にある経済産業省の経済産業局に申請書を提出しなくてはならない。ただし家庭向けを中心とする10kW未満の太陽光に関しては、専用のウェブサイトで申請を受け付けている(図3)。

ALT 図3 太陽光発電(10kW未満)の設備の認定を申請するためのウェブサイト(http://www.fit.go.jp/)

 実際に買取が始まるまでには、もうワンステップが必要だ。電力を買い取ってもらう相手先と契約を結ばなくてはならない。通常は電力会社に買い取ってもらうことになるが、状況によっては電力会社とは別の電気事業者と契約を結ぶほうが話を進めやすいこともある。

 日本には電力を販売できる「電気事業者」が5種類に区分されている(図4)。このうち電力会社(電気事業法では「一般電気事業者」と呼ぶ)だけではなく、企業などに電力を販売できる「特定電気事業者」と「特定規模電気事業者」に対しても買取が義務付けられている。

ALT 図4 日本における電気事業者の位置づけ。出典:資源エネルギー庁

 中でも特定規模電気事業者は「新電力」と呼ばれており、7月4日の時点で60社が登録されている。従来の電力会社よりも安い料金で電力を販売するのが特徴で、最近は地方自治体を中心に電力会社から新電力へ切り替えるケースが増えている。電力を安く買うことと合わせて、自家発電で余った電力を売る相手先としても、新電力を選ぶことが可能になったわけだ。

再生可能エネルギーを育てるための「賦課金」

 電力を売って収益を上げられるようになる一方で、新制度によって電気料金が高くなるという問題も見過ごすことはできない。電気事業者が発電コストの高い再生可能エネルギーを買い取るために、通常の火力発電などによるコストとの差額を利用者が負担しなくてはならないからだ。

 「再生可能エネルギー賦課金」と呼ばれるもので、2012年度は電力1kWhあたり0.22円が電気料金に上乗せされることになった(図5)。企業向けの電気料金で2〜3%、家庭向けで1%程度の金額だ。これに従来から地域別に徴収されている「太陽光発電促進付加金」が加わるが、2014年度からは再生可能エネルギーの賦課金に一本化されて全国一律になる。

ALT 図5 2012年度の「再生可能エネルギー賦課金」と「太陽光発電促進付加金」(月額、1kWhあたり)。6月までは後者だけ。出典:資源エネルギー庁

 この賦課金は毎年の買取量の総額をもとに経済産業省が算出することになっており、今後は買取量の増加に伴って確実に高くなっていく。その代わりに化石燃料を使った発電量が減っていけばCO2排出量が少なくなるわけで、地球温暖化を抑制する上では望ましい方向だ。国民の義務として一種の税金と考えるべき性質のものと言えよう。

大量の電力を使う事業者には賦課金を8割減額

 とはいえ状況によっては賦課金の負担が過大になるケースが想定されるため、「減免措置」が用意されている。その対象は2つあって、1つは東日本大震災で被害を受けた施設で使われる電力に対してである。ただし2012年度に限定した措置になる。

 もう1つは電力使用量が多いために、賦課金の負担が事業に大きな影響を及ぼしてしまう場合だ。一定の条件を満たせば賦課金の8割が免除される。主な適用条件は2つある(図6)。

ALT 図6 賦課金の減免措置を受けられる事業の条件。出典:資源エネルギー庁

 1つ目の条件は、売上1000円あたりの電力使用量が5.6kWhを超えることである。これは製造業の平均値である0.7kWh/1000円の8倍を基準に決められた。売上に比べて電力使用量が非常に多い事業が対象になる。さらに年間の電力使用量が100万kWhを超えることが2つ目の条件である。

 2012年度の賦課金は1kWhあたり0.22円であることから、100万kWhに対する賦課金の総額は年間で22万円になる。さほどの負担増とは考えにくいが、電力使用量がケタ違いに大きい事業所では減免措置の適用が有効だろう。特に今後は賦課金の額が毎年大幅に増えていくことが予想されるため、該当する事業がある企業は早急に申請を検討したほうがよい。

 2012年度分の賦課金に対する減免措置の申請は7月13日(金)まで、2013年度分については11月30日(金)まで受け付ける。新制度の開始から申請受付までの期間が短いため、実際に適用を受ける事業所が増えるのは2013年度分からになりそうだ。

 固定価格買取制度が広く浸透するためには、ほかにも懸念点がいくつかある。特に重要な問題点と指摘されているのは、電力会社による「接続拒否」の可能性である。これは電力供給ネットワークを適切な状態で維持するための技術的な問題とも関連するもので、買取量や買取対象者の増加に伴って顕在化してくる心配がある。電力会社の送配電ネットワークを利用するための接続料金の問題と合わせて、次回に詳しく解説する。

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連載(3):「買取拒否と接続拒否ができる、新制度に残る運用上の問題」

連載(4):「太陽光発電の事業化が加速、10年で採算がとれる」

連載(5):「風力発電が太陽光に続く、小型システムは企業や家庭にも」

連載(6):「水力発電に再び脚光、工場や農地で「小水力発電」」

連載(7):「地熱発電の巨大な潜在力、新たに「温泉発電」も広がる」

連載(8):「バイオマスは電力源の宝庫、木材からゴミまで多種多様」

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