バイオマスで電力と水素を生成、復興だけでなく新産業創出を目指す自然エネルギー

岩手県宮古市は2012年末からバイオマスを利用した大プロジェクトを立ち上げることを発表していたが、その詳しい内容が明らかになった。バイオマス発電設備を建設し、それを中核として都市の復興を目指す大掛かりな計画だ。

» 2013年01月15日 07時00分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

 宮古市はこの計画に「宮古市ブルーチャレンジプロジェクト」と名付け、2012年末からプロジェクトの名称をアピールしていた。2013年になって、いよいよその細かい内容が明らかになった。

 プロジェクトの中核となるのは「ブルータワー」と呼ぶバイオマス発電設備だ(図1)。ブルータワーは、2014年秋の稼働を目指している。これはジャパンブルーエナジーが開発した独自技術であり、単純に木質バイオマスを燃焼させて発電させる発電機とは仕組みが異なる。

図1 福岡県大牟田市で稼働中のブルータワー。新出光の子会社であるイデックスエコエナジーが運営している。出典:ジャパンブルーエナジー

 ブルータワーではバイオマスを直接燃焼させず、バイオマス原料を無酸素の状態に置いて高温で熱する。するとメタン(CH4)を多く含有するガスができる。このガスをガスコージェネレーションシステムに供給して発電する。発電能力は3MWの予定。発電した電力は、全量電力会社に売電する。ガス燃焼時に発生する熱は、農業で利用する。バイオマス原料を林業で発生する間伐材とすることで、林業の活性化も期待できる(図2)。

図2 ブルータワーが生み出す電力は全量売電し、発電時に発生する熱を農業で利用する。燃料を間伐材とすることで林業の活性化も期待できる。出典:宮古市

水素を活用する近未来像を描く

 ここまでは、既存のバイオマス発電施設とさほど用途は変わらない。宮古市ブルーチャレンジプロジェクトの特長は、将来図を描いて、その通りに発展していけるようにブルータワーを利用する点にある。

 ブルータワーで得たガスは、無酸素の状態に置いて水蒸気(H2O)を加えて加熱すると、水素(H2)を取り出せる。宮古市ブルーチャレンジプロジェクトでは、この水素を有効活用する計画を立てている。

 水素の用途としては、住宅や工場、園芸施設などに設置した燃料電池の燃料が挙げられる。現状の燃料電池は都市ガスなどを改質して水素を得ている。水素を直接得られれば、改質に必要なエネルギーを節約できる。

 もう1つは、燃料電池車の燃料だ。ブルータワー由来の水素を供給する水素ステーションを建設し、燃料電池車が自由に走れる環境を作る計画だ。トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業は2015年までに燃料電池車の量産を2015年までに始める計画を立てており、その時期に合わせて日本全国100カ所に水素ステーションを整備する予定になっている。ブルータワーの稼働開始は2014年秋。燃料電池車向け水素ステーションの整備も十分間に合う(図3)。

図3 ブルータワー由来の水素の主な用途。将来の燃料電池車の販売開始を見据えている。出典:宮古市

 さらに、太陽光発電や風力発電による電力を利用して水素を精製し、供給する新産業の創出を目指している。

 宮古市はブルータワーを震災で大きな被害のあった地区に、建設することを予定している。数ある再生可能エネルギー利用計画の中でも、ここまで将来を見据えた、野心的なものはないだろう。予測したとおりにプロジェクトが進めば、ブルータワーは震災復興の象徴となるだろう。

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