被災地をエネルギー100%自給都市に、松島から気仙沼まで広がる再生計画エネルギー列島2013年版(4)宮城

宮城県の市町村が震災からの復興を目指して再生可能エネルギーを取り入れたスマートシティ構想を推進中だ。美しい風景で有名な奥松島にメガソーラーを建設する計画があり、漁業と林業が盛んな気仙沼ではバイオマス発電による地域活性化プロジェクトが動き出している。

» 2013年04月23日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 東日本大震災で最も大きな被害を受けた宮城県内で、復興に向けた力強い取り組みが地域ごとに進んでいる。重要なテーマのひとつが、再生可能エネルギーによる自立した街づくりだ。主なものだけでも9つの市町村でスマートシティを構築する計画が始まっている(図1)。それぞれ地域の特性を生かして、太陽光やバイオマスを取り入れた環境重視型の新しい産業で復興を図る狙いがある。

図1 宮城県内の主なスマートシティ構築計画。出典:宮城県環境生活部

 代表的な例が東松島市だ。人口4万人の太平洋に面した小さな市は大震災による津波で3分の1以上が浸水し、1000人を超える市民の命を失ってしまった。震災直後には電力をはじめエネルギーの供給が断たれた。復興にあたっては自立分散型のエネルギー供給体制の構築を進めながら、同時に地域の活性化を実現する。

 東松島市が2013年2月に策定したビジョンでは、地域内のエネルギー消費量を実質的にゼロにする「ネット・ゼロ・エネルギー・シティ」を掲げた。10年後の2022年までに太陽光・風力・バイオマスによって一般家庭の電力使用量の100%を、産業分野でも80%以上を供給できるようにする構想だ(図2)。すでに具体的な計画が進み始めている。

図2 東松島市の再生可能エネルギー拡大目標。出典:東松島市復興政策課
図3 奥松島の風景。出典:東松島市復興政策課

 日本三景のひとつ松島の東側に広がる「奥松島」の風景は、見る者を圧倒するほどの美しさがある(図3)。この奥松島も震災の被害をまぬがれることはできず、被災した跡地の活用策を検討した結果、メガソーラー(大規模太陽光発電所)を建設することが決まった。

 津波で浸水した地域の中では初めて稼働するメガソーラーになる見込みで、復興の第一歩になるプロジェクトである。奥松島にある公園の跡地の一部に2MW(メガワット)の太陽光発電設備を導入して、年間に210万kWhの電力を供給できるようにする(図4)。一般家庭600世帯分の電力使用量に相当する規模で、2013年10月から運転を開始する予定だ。

図4 奥松島「絆」ソーラーパークの建設予定地(左側にある明るい青色の四角形と五角形の部分)。出典:東松島市復興政策課

 被災地の多くで土地の有効な活用方法が見つかっていない状況にあって、東松島市は奥松島にメガソーラーの導入をいち早く決定して、関連する法律や制度の変更・整備を短期間に進めた。スマートシティを展開するうえで先行的なモデルに位置づけるためである。

 ただし拙速に計画を進めるわけではない。景観を損なわないように周囲に植樹を施すほか、メガソーラー内の敷材には地元の名産品であるカキの殻を再利用するなど、地域密着型で再生可能エネルギーを広げていく。太陽光パネルの清掃や敷地内の除草といった作業は市内で発注して雇用の拡大につなげる方針だ。

 再生可能エネルギーの導入が活発な東北6県の中で、宮城県は大きく後れをとっている。日本全国でも導入量は30番目にとどまる(図5)。今後は各市町村のスマートシティ計画の進展によって太陽光発電が急速に増えていき、さらにバイオマスの利用を拡大する余地も大きく残っている。

図5 宮城県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 特にバイオマスに力を入れているのが気仙沼市だ。宮城県の沿岸部で最北端にある気仙沼でも1000人以上の人命が失われ、基幹産業の水産加工業が大きな被害を受けた。いまスマートシティ計画が着々と進んでいる。

 復興に向けて地元の水産加工業9社を中心に、再生可能エネルギーを導入して「エコ水産加工団地」を整備する計画が始まっている。各社の工場に太陽光パネルを設置するほか、水産加工に伴う生ごみや廃棄物などを再利用したバイオマス発電にも取り組んでいく計画だ。

 沿岸部だけではなく山間部でもバイオマス発電が広がる。気仙沼市は面積の7割を森林が占めていて、間伐材など木質バイオマスの素材が豊富にある。その森林資源を生かすために、地元の金融機関などが出資して木質バイオマス発電所を建設するプロジェクトが進行中だ。発電規模は800kWで、2013年12月から運転を開始する予定である。

 この発電プロジェクトでは林業と水産加工業を連携させて地域の産業を活性化する独特の仕組みがある。林業の事業者が木質バイオマスの原材料を発電事業者に提供すると、対価の半分は地域内だけで有効な通貨で支払われる(図6)。その通貨を使って地元の海産物を購入したり飲食店で食事をしたりすることで、再生可能エネルギーを地元の産業振興につなげる。

図6 気仙沼市の木質バイオマス発電プロジェクト。出典:東松島市復興政策課

 震災の被害を大きく受けた沿岸部を中心に、宮城県の全域に再生可能エネルギーを活用した復興プロジェクトが広がりを見せている。2020年代には東松島市をはじめ、エネルギーの自給率が100%に近づく市町村が数多く出てくるだろう。自立分散型のエネルギー供給体制を基盤にしたスマートシティの誕生が復興のシンボルになる。

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