電気と熱を同時に生み出すIBMの太陽光システム、総合効率80%へ自然エネルギー

米IBM研究所が開発した太陽光発電システムは電力と熱を生み出す。海水の淡水化や空調にも利用できるような設計だ。さらに安価に量産できるよう工夫されている。

» 2013年05月13日 11時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 未来の太陽光発電システムはどのようなものになるのだろうか。シリコンを使った場合の限界である25%を超える高効率なものが1つ。安価な材料を利用でき、非常に低価格なものもありうるだろう。さらに、電力以外の副産物を生むような太陽光発電システムも考えられる。

 米IBM研究所が公開したHCPVT(High Concentration Photo Voltaic Thermal)システムは、これら全てを満たす。

 基本的な考え方はこうだ。太陽光を鏡で小さな面積に集中させて、変換効率を高め、熱を回収する。その熱を使って海水から淡水を生み出す。淡水の代わりに冷気を作り出してもよい。

 IBM研究所によれば、入射する太陽エネルギーのうち、30%を電力として、50%を熱として回収できることから、総合効率は80%に達するのだという。

 図1がシステムの受光部だ。パラボラ状の鏡に当たった太陽光が、左上の小さな部分に集まって白く光っている様子だ。光っている部分には太陽電池セルとマイクロチャネル水冷システムが埋め込まれている。その部分の拡大図が図2だ。ここでは1cm角の太陽電池セル(3接合型)が9枚、モジュールに搭載されている。1cm角の太陽電池セル1つの出力は200〜250Wと高い。

図1 米IBMが試作したHCPVTシステム。出典:米IBM研究所
図2 HCPVTシステムの発電部分。出典:米IBM研究所

 HCPVTシステムが従来の類似技術よりも優れている点は2つあるのだという。まずは熱の利用効率が高いことだ。これは太陽電池セルからわずか数十μmの所を冷却液が流れる構造を採ったからだという。熱抵抗が小さくなり、空冷システムの10倍もの熱を回収できる。IBMが2010年に開発したスーパーコンピュータ「Aquasar」で初めて実用化した技術だ。今回のプロトタイプでは太陽光を2000倍に集光している。マイクロチャネル水冷システムを使えば、より大量の熱を運ばなくてはならない5000倍集光まで耐えられるという。

 もう1つは地味だが、量産・普及を考えたときに重要な利点だ。システムのほとんどの部分を橋梁で使う軽量で高耐久性を持たせたコンクリートで製造することが1つ。もう1つは鏡を高価な金属鏡ではなく、金属を蒸着させたフォイルをパラボラ状の台座に貼り付けることで製造するというコンセプトだ。IBMの試算によればシステム1m2当たりのコストは250米ドル以下にできるという。1kWh当たりのコストに換算すると10セント未満だ。

 図2のセルは高価だが、それ以外の部分はごく安価に製造できるようにすることで、発電量当たりの製造コストを低減できる。図2のモジュール10個程度並列した出力25kWのシステムを用いたコンセプトを図3に示す。

図3 HCPVTシステムの実用イメージ。出典:米IBM研究所

 淡水や冷気を生み出すには、回収した高温の冷却液を吸収冷凍機システムに供給すればよい。90℃の水を使って、海水を直接接触型膜蒸留法システムに導き入れることで、1日当たり、受光面積1m2当たり、30〜40Lの淡水が得られるという。高温で水が貴重な海岸沿いの地域では重宝する性質だ。

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