森林率78%が生み出す木質バイオマス、日本海の風は77基の大型風車へエネルギー列島2013年版(32)島根

強い風が吹く日本海側には風力発電に適した地域が多い。島根県もそのひとつで、77基の大型風車が集結する。さらに県を挙げて取り組むのが木質バイオマスと太陽光発電だ。県内にある原子力発電所の再稼働をめぐって住民の反対運動が起こる中、自然エネルギーの導入拡大を急ぐ。

» 2013年11月05日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 島根県の日本海側には、東西に長く宍道湖(しんじこ)が広がる。湖の西側近くには日本最大の「新出雲風力発電所」が稼働する一方、北側には日本で唯一の県庁所在地に立地する「島根原子力発電所」が出番を待つ状態にある(図1)。新旧の巨大な発電所が相対する周辺で、風力を中心にバイオマスや太陽光の発電設備が勢いを増している。

図1 「島根原子力発電所」の所在地と全景。出典:中国電力

 中国地方全体の風力発電所は運転見込みの設備を含めると400MW(メガワット)の規模に達する。そのうち半分近くを島根県が占める(図2)。発電能力が1.5MW以上の大型風車だけで48基が稼働中だ。さらに計画中の大規模な発電所を加えると、77基を擁する風力発電の先進県に発展する。

図2 中国地方の主な風力発電所(画像をクリックすると拡大)。出典:経済産業省中国経済産業局

 新たに建設が始まる風力発電所は「ウインドファーム浜田」で、日本海から10キロメートルほど内陸に入った丘陵に29基の大型風車を稼働させる計画だ(図3)。1基あたりの発電能力は1.67MW、29基の合計で48MWを発揮する。新出雲の78MWには及ばないものの、国内で有数の大規模な風力発電所になる。

 年間の発電量は8500万kWhを見込み、一般家庭で2万4000世帯分の使用量に相当する規模がある。風力を中心に国内外で発電事業を推進するグリーンパワーインベストメントがソフトバンクグループや三井物産と共同で進めるプロジェクトで、2015年度中に運転を開始する予定だ。

図3 「ウインドファーム浜田」の完成イメージ。出典:SBエナジーほか

 島根県の風力発電の導入量は全国で第6位にランクされていて、西日本では鹿児島県に次いで2番目に多い。ウインドファーム浜田が稼働すれば、ランクアップも期待できる。さらに最近では太陽光とバイオマス発電の伸びも顕著になってきた(図4)。

図4 島根県の再生可能エネルギー供給量。出典:千葉大学倉阪研究室、環境エネルギー政策研究所

 2013年に入ってから、木質バイオマスを燃料に利用する発電所の建設計画が相次いでいる。代表的な例は文具メーカーのナカバヤシが松江市内の自社工場で実施するプロジェクトだ。業務で紙を大量に扱うことから、島根県産の木質バイオマスを活用した発電事業を開始することにした。

 発電規模は6.25MWで、年間の発電量は4300万kWhを想定している。一般家庭で1万2000世帯分の供給量になる。固定価格買取制度を通じて1kWhあたり32円で売電して、年間に13億円強の収入を見込んでいる。設備投資額は30億円。運転開始は2015年4月を予定している。

 島根県は面積の78%を森林が占める“森林県”である。県内で発生する間伐材や林地残材などには未利用のものが多く、2010年度の時点ではわずかに0.5%しか活用されていなかった。この比率を2020年度には45%まで高める計画で、バイオマス発電を重要な施策に位置づけている(図5)。

図5 島根県のバイオマス利用目標。出典:島根県農林水産部

 支援策のひとつが「島根CO2 吸収・固定量認証制度」である(図6)。島根県が2010年度に開始した制度で、森林の整備に貢献した企業や個人に認証書を発行して、寄付と同等の行為とみなす(図6)。これまでに30以上の企業・団体や個人が認証を受けた。

 この制度を通じて木質バイオマスの供給量を拡大する狙いがある。バイオマス発電では原材料を安定かつ長期にわたって確保することが大きな課題になっているため、森林整備を促進して木質バイオマスを増やしていく。ナカバヤシの場合は年間に8万8000トンの未利用木材を発電に使う予定で、そのうち4分の3は島根県産でまかなう方針だ。

図6 循環型林業を推進する「島根CO2 吸収・固定量認証制度」。出典:島根県農林水産部

 太陽光発電に関しても、県を中心に自治体の取り組みが活発になってきた。自治体が所有する未利用の土地の中からメガソーラーに適した場所を選んで、発電事業者に貸付あるいは売却して導入を支援する。すでに4カ所で建設が決まり、合計すると10MW近い規模になっている。

 そのうちのひとつが「宍道湖東部浄化センター」の空き地を利用したメガソーラーである。この浄化センターは松江市など周辺地域の家庭や工場から出る下水を浄化するための施設で、3万平方メートルの敷地に1.9MWの太陽光発電設備を導入する。地元の建設会社が島根県から用地を賃借して発電事業に挑む。

図7 「宍道湖東部浄化センター」のメガソーラー建設予定地。出典:島根県地域振興部

 宍道湖の隣に広がる中海の干拓地でも、新しいタイプのメガソーラーの計画が進んでいる。干拓地の中に灌漑用の大きな調整池があって、その水面にフロート式のメガソーラーを建設する試みだ(図8)。広さが5万平方メートルあることから、2MWクラスの発電設備を想定できる。干拓地を所有する安来市(やすぎし)は2013年11月末までに事業者を決めて、2014年の早い時期に運転を開始したい考えである。

図8 「中海干拓地安来工区調整池」のメガソーラー建設予定地。出典:安来市役所

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