太陽電池の効率改善や劣化対策に取り組む産業技術総合研究所が新しいモジュールを開発した。化合物を使ったCIGS系の太陽電池に特殊な合成樹脂フィルムを組み合わせることで、メガソーラーなどで問題になる高温・高湿時の「PID」による出力低下を防ぐ。
産業技術総合研究所(略称:産総研)が開発した太陽電池モジュールは銅・インジウム・ガリウム・セレンなどの化合物を使ったCIGS系と呼ばれるもので(図1)、一般的なシリコン系の太陽電池と比べて高温になっても出力が低下しにくい特徴がある。それでも「PID (Potential-Induced Degradation、電圧誘起出力低下)」と呼ぶ現象を起こす可能性があり、発電量に大きな影響を及ぼしかねない。
そこで産総研は特殊な合成樹脂フィルムを使って太陽電池を封止する方法で新しいモジュールを開発した。封止材として標準的なEVA(エチレン酢酸ビニルコポリマー)の代わりに、ゴルフボールなどの素材として使われる「アイオノマー」を採用したところ(図2)、PIDを防止する効果を実証することができた。
PIDは高温・高湿の状態で太陽電池に高い電圧がかかると、出力の低下を引き起こす現象である。主な要因は太陽電池モジュールの表面をカバーするガラスがナトリウムイオンなどを拡散することにある。アイオノマーはEVAと同様にエチレン系の合成樹脂だが、ナトリウムイオンなどの拡散を防ぐことで知られている。
産総研は実験室で85度の高温の状態を作り、模擬的にPIDを起こす試験を実施した。その結果、シリコン系の太陽電池モジュールでは短期間に出力が低下したのに対して、EVAを封止材に使った標準的なCIGS系の太陽電池モジュールは出力の低下が少なくて緩やかだった(図3の左)。
さらに封止材にアイオノマーを使った太陽電池モジュールでは出力の低下がほとんど起こらなかった(図3の右)。PIDは通常の利用環境でも運転開始から1年程度で発生することがあり、太陽電池メーカーは対策を求められている。産総研は試験方法などを変えながら今後もPID対策技術の研究開発を続けていく。
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