森林から牧場までバイオマス全開、メガワット級の発電設備が増殖中エネルギー列島2014年版(3)岩手

岩手県は面積の8割を森林が占めている。高原には牧場が広がり、畜産業も盛んだ。震災からの復興に向けて、県内に豊富にあるバイオマス資源を活用した発電プロジェクトが相次いで動き出す。森林を守るための間伐材から家畜の糞尿まで、捨てられていた資源が電力に生まれ変わる。

» 2014年04月30日 09時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 岩手県の木材生産額は全国で第5位に入る。杉や松が多く、震災の津波にも耐えた陸前高田市の「奇跡の一本松」は象徴的な存在だ。県内の森林を守るために伐採する間伐材の量は膨大にあるが、建材などに利用できるものは一部に限られていた。中でも森林資源が豊富な北部の一戸町(いちのへまち)で、未利用の木質バイオマスを活用した発電プロジェクトが進んでいる。

 再生可能エネルギーによる電力事業を展開するエナリスと、廃棄物のリサイクル事業を専門にするフジコーが共同で「一戸フォレストパワー」を2014年1月に設立した。一戸町内にある工業団地の中に、近隣地域から集めた木質バイオマスを燃料に利用できる発電設備を建設する計画だ(図1)。

図1 一戸町で計画中の木質バイオマス発電事業の予定地。出典:フジコー

 導入する設備の発電能力は6.25MW(メガワット)を予定していて、年間の発電量は4950万kWhに達する見込みである。一般家庭の電力使用量に換算して約1万4000世帯分に相当する規模で、一戸町の総世帯数(5800世帯)の2倍以上になる。運転開始は2016年2月を予定している。CO2を吸収する木質バイオマスの利用効果によって、年間に約3万トンのCO2排出量を削減することができる。

 岩手県内の木質バイオマスを発電に活用する取り組みは、これだけにとどまらない。国内でも最先端のプロジェクトが太平洋に面した宮古市で進行中だ。震災からの復興と地域の活性化を目指して、「宮古市BLUE CHALLENGE PROJECT」が2012年12月から始まった。

 宮古市は岩手県内でも森林が多く、実に面積の9割を占めている。市内で発生する未利用の木材を「BLUEタワー」と呼ぶ設備を使ってガスに転換してから、電力と熱、さらに水素まで作り出す。発電能力は3MWを予定していて、熱は農業に、水素は燃料電池に利用することができる(図2)。

図2 「宮古市BLUE CHALLENGE PROJECT」の全体像(画像をクリックすると拡大)。出典:宮古市ブルーチャレンジプロジェクト協議会

 このプロジェクトを推進する協議会には宮古市のほかに、トヨタ自動車を含む12社が参画している。当初は2014年内に稼働する予定だったが、復興交付金の支給を受けられなくなったために、現在のところ具体的な運転開始の時期は決まっていない。地域の資源を活用した復興プロジェクトの1つとして、進展が待たれるところだ。

 被災した岩手・宮城・福島の3県には、さまざまなバイオマスエネルギーが存在する。主なものは畜産系・木質系・農業系の3種類で、特に岩手県は木質系とともに畜産系のポテンシャルが大きい(図3)。牛や鶏など家畜の糞尿からメタンガスを生成して発電に利用することができる。

図3 東北3県のバイオマスエネルギー賦存量。左から順に、畜産系、木質系、農業系(画像をクリックすると拡大)。出典:科学技術振興機構

 畜産系のバイオマス発電では、鶏の飼育から食肉の加工までを手がける十文字チキンカンパニーの事例が代表的だ。1日あたり400トンの鶏のふんを燃料にして、6.25MWの電力を供給するプロジェクトが県北部の軽米町(かるまいまち)で進んでいる。一戸町の木質バイオマス発電と同じ規模で2015年12月に運転を開始する予定だ。

 すでに岩手県内では、畜産で発生する糞尿を利用した発電設備がいくつか稼働している。その中には日本で有数の牧場として有名な小岩井農場の取り組みも見られる。農場を経営する小岩井農牧や地元の雫石町が共同で出資している「バイオマスパワーしずくいし」である。

 牛や鶏などの糞尿のほかに食品廃棄物を混ぜて発酵させてから、生成したガスを使って250kWの電力を作り出している(図4)。発電量は1日に4000kWh、年間で約150万kWhになる。運転を開始したのは9年前の2005年で、小岩井農場の電力源として使われ続けている。

図4 食品廃棄物や畜産糞尿を利用した発電設備(上)と処理の流れ(下、画像をクリックすると拡大)。出典:バイオマスパワーしずくいし

 最近では同じ雫石町内に、発電能力が25MWの大規模なメガソーラーを建設する計画も決まった。新たに固定価格買取制度の認定を受けた発電設備の状況を見ると、岩手県の再生可能エネルギーは太陽光とバイオマスの2つに集中している(図5)。もともと地熱や小水力発電が盛んな地域だが、当面は太陽光に加えてバイオマス発電の勢いが広がっていく。

図5 固定価格買取制度の認定設備(2013年12月末時点)

*電子ブックレット「エネルギー列島2014年版 −北海道・東北編 Part1−」をダウンロード

2016年版(3)岩手:「地熱発電を雪深い山の中で、海岸では波力発電に挑む」

2015年版(3)岩手:「鉄と魚のまちがエネルギーのまちへ、太平洋の波と風を電力に」

2013年版(3)岩手:「風力やバイオマスで自給率35%へ、復興を加速するエネルギー拡大戦略」

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