電気料金の価格競争を全国に、「小売全面自由化」で事業者が急増電力自由化の3つのステップ(2)

電力市場を改革する第2段階が小売の全面自由化だ。これまで電力会社だけに限定してきた家庭向けの小売事業を2016年から開放する。全国に多数の利用者を抱える電話会社をはじめ、異業種からの参入が相次ぐ。地域単位で一律に決まっていた電気料金は値下げ競争に突入する。

» 2014年05月01日 13時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

第1回:「電力会社の地域独占を崩す、広域機関の準備が48社で始動」

 長年にわたって電力会社が独占してきた小売事業は2000年(平成12年)から段階的に自由化が進んで、規制が残るのは家庭を中心とする「低圧」だけになっている(図1)。とはいえ低圧の事業は電力会社の販売量の4割近く、売上では5割近くを占める。この巨大な市場を開放しなければ、日本の電力業界に健全な競争状態は生まれない。

図1 契約電力の大きさによる小売自由化の流れ。出典:資源エネルギー庁

 政府が進める3段階の改革の中で、最も重要な施策が「小売全面自由化」である。すでに準備が始まった第1段階の「電力広域的運営推進機関」の設立に続いて、第2段階の小売全面自由化を実施するための法案が2014年6月までに成立する見通しだ。ようやく2年後の2016年から、電力会社以外の事業者が家庭にも電力を販売できるようになる。

 その影響は家庭だけにとどまらない。市場が開放されて数多くの事業者が参入することによって、企業向けを含めて電力の価格全体が下がっていく。従来は小売に限らず、発電に関しても10社の電力会社と2社の卸電気事業者(電源開発、日本原子力発電)が市場を支配してきた(図2)。

図2 電力会社(一般電気事業者)に依存する現在の市場構造。出典:資源エネルギー庁

 小売全面自由化を前に、発電事業に参入する企業が急速に増えている。今後はコストの安い電力を求める小売事業者が増えていくことは確実で、発電事業者にも絶好のチャンスが広がる。全国に工業用地を抱える鉄鋼会社や石油会社などが、燃料費の安い石炭火力や発電効率の高いガス火力の発電所を相次いで建設する計画だ。

 有力な発電事業者と小売事業者が増加して、電力市場の構造は大きく変化していく。現在は発電から送配電、小売まですべてが電力会社だけで完結する。2016年に実施する小売全面自由化で事業者の区分も変わり、電力会社による垂直統合の構造は消滅する。電力を利用する需要家には「小売電気事業者」が対応する形になる(図3)。

図3 小売全面自由化に伴う電気事業者の再編案(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 小売電気事業者になるのは電力会社のほかに、現在は企業や自治体に限って電力を販売できる「特定規模電気事業者」(通称:新電力)である。2014年4月25日の時点で新電力は206社にのぼる。ちょうど100社に到達したのが2013年9月10日のことで、わずか7カ月半で2倍以上に拡大した。

 多くの事業者が顧客獲得を競う結果、電気料金は確実に下がっていく。少なくとも最近のように値上げが続く状況はなくなる。すでに200社以上の事業者が競争状態にあるガス料金が好例だ。LNG(液化天然ガス)の輸入価格が高騰しても、大切な顧客を失わないように料金は値上げしない。内部の合理化で吸収する。どの業界でも取り組んでいる当然の対応策だが、現在の電力会社には難しい。

 ただし利用者にとって心配な点は、価格競争のために電力の品質が悪くなったり、最悪の場合に供給が止まったりする事態である。そうした問題を回避するための経過措置が、2016年の全面自由化から2年程度のあいだ設けられることになっている(図4)。電力会社の小売部門は政府が認可する料金で、他の事業者の顧客にも電力を供給する義務を負う。特定の利用者が不利益を被らない仕組みが用意される。

図4 電気料金の規制を撤廃するまでの経過措置。出典:資源エネルギー庁

 この経過措置は改革の第3段階にあたる「発送電分離」を実施するまで続く。2018〜2020年に発送電分離を実施した後は、利用者に電力を届ける送配電事業者が最終的な電力供給の役割を担う。電力会社の送配電部門が独立して「一般送配電事業者」として認可を受けて、最終保障サービスを提供することになる。送配電だけは競争状態を作らずに、適正なコストで安定した事業を運営できる体制を維持する。

第3回:「電力会社を解体、発送電分離なしに改革は終わらず 」

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