電力会社から小売事業者へ契約変更を促す、需要家の情報を共有できる新制度動き出す電力システム改革(1)

2015年から始まる電力システムの改革に向けて、土台になる施策の検討が急ピッチで進んでいる。競争を促進するためには、電力会社が持つ需要家の情報を小売事業者も共有できるようにする必要がある。新設する中立の運営機関が全国8000万の需要家の情報を管理して提供する案が有力だ。

» 2013年10月22日 15時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 電力システムの改革は2015年から3段階に分けて進めていく。第1段階では電力会社の壁を越えて全国の需給状況を調整する「広域的運営推進機関」を創設することになっている。この広域機関が第2段階の小売全面自由化でも重要な役割を担う見通しだ。

 小売の全面自由化によって競争を加速するためには、新規の小売事業者が既存の電力会社と対等な条件のもとで需要家(消費者)を獲得できるようにしなくてはならない。そのうえで電力会社から別の小売事業者へ契約を変更する場合には、手続きが簡単に済むことが望ましい。

 資源エネルギー庁が検討している案は、需給調整を担当する広域機関が全国8000万の需要家の情報を一元的に管理できるようにする新しい制度だ。広域機関が「共通情報検索システム」を構築して、そこに集約した需要家の情報を小売事業者が閲覧できるようにする(図1)。

図1 需要家が小売事業者を変更する場合の手続きの流れ(検討中の案。画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 一方で小売事業者は需要家との契約を変更する場合に、必ず変更連絡を送配電事業者に提出する必要がある。こうした新規の契約情報も広域機関のシステムに集約することで、継続的な情報提供が可能になる。変更連絡の書式を全国で統一すれば、一連の手続きを電子化してスピードアップを図ることもできる。

 契約を変更する際に必要な需要家の情報には、氏名や連絡先のほかに、契約電力など設備に関する情報がある(図2)。小売事業者が魅力的な提案を用意するためには、電力使用量のデータも重要だ。今後スマートメーターが普及すると、使用量のデータを30分単位で取得できる。ただし個人情報保護の観点から、需要家が承諾した場合に限って情報を提供できるようにすることが前提になる。

図2 契約変更の際に必要になる需要家の情報。出典:資源エネルギー庁

 小売の全面自由化は2016年に実施する予定で、それまでに需要家の情報を集約した共通検索システムを稼働させる必要がある。資源エネルギー庁は専門家で構成する「電力システム改革小委員会」の中に設置した「制度設計ワーキンググループ」を通じて、共有する情報の内容や形式、需要家の承諾確認方法、不正に情報を取得した小売事業者の罰則などを検討していく。

 従来のように電力会社が独占している市場を自由化しても、当面は小売を含めて電力会社が優位な立場にあることに変わりはない。地域単位の送配電事業者は現在の電力会社から独立して作られることになるため、需要家の情報を電力会社グループの送配電事業者と小売事業者だけで共有できてしまうと公平な競争状態にならない。広域機関が中立的な立場で需要家の情報を集約・提供することで、競争条件を公平にしていく。

連載第2回:「再生可能エネルギーの制度も見直し」

連載第3回:「電力会社の送配電網を利用しやすく」

連載第4回:「売り手と買い手を増やして電力を流通」

連載第5回:「第1段階の広域機関の設立準備が進む」

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