エネルギー不要の技術あり、環境から少しずつ回収して使う和田憲一郎が語るエネルギーの近未来(2)(4/4 ページ)

» 2014年06月27日 09時00分 公開
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ゼロエネルギービル(ZEB)に必要

 ロームへのインタビューでEnOcean技術が登場した。そこで、EnOcean Allianceのアジア担当副会長を務める板垣一美氏に、EnOceanの活動やアライアンスの状況について聞いた(図11)。

和田氏 EnOceanの成り立ちについて教えて欲しい。

板垣氏 ドイツSiemensの中央研究所には、エネルギー・ハーベスティングによって発生した微小電力をいかに有効活用するかという研究を行っているグループがあった。そこで培った技術を基にスピンオフしてできた企業がEnOceanだ。EnOceanは2002年に商品を開発し、2003年から販売を開始した。例えばスペインのマドリード空港の近くにマドリードタワーという建物がある。ここはSiemensが設計施工を行い、ビルの照明スイッチなどにエネルギー・ハーベスティングの商品が導入されている。

図11 EnOcean Allianceの板垣一美氏

 エネルギー・ハーベスティングのメリットは配線とメンテナンスが不要であること。リフォームなどの現場では大幅にコストを低減できる。電池が不要なため、環境に優しいことも大きなメリットだ。EnOceanのワイヤレス通信は、他の通信機器と比較して電磁界の影響が非常に弱い。そのため病院のナースコールにも使用されている。

和田氏 欧州では、既に約50万棟のビルにエネルギー・ハーベスティング技術が採用されていると聞いている。なぜここまで普及したのか。

板垣氏 幾つもの要因がある。配線作業を極力減らすことができるため、初期投資や改装費用を安く抑えられること、そしてEnOcean関連の無線スイッチやセンサーの導入が省エネルギーにつながるという観点が一番大きいのではないだろうか。エネルギー・ハーベスティングのスイッチや照明を採用したとしても、1〜2年で費用を回収することができる。

 加えてデザインの自由度だ。例えばホテルやオフィスビルなどでは、(ケーブルをはわせることなく)立壁のガラス面にスイッチを取り付けることが可能になる。後からでも簡単に追加設置できることから、スイッチは入口の近くという固定概念にとらわれる必要がなくなる。机の上や寝室横、壁面など、どこにでも設置可能だ(図12)。

 もう1つの要因は法規制だ。欧州では近年新しいビルを建てる際に、ビルのエネルギー効率化に向けた法規制が実施されており、ビルマネジメントの効率化、高度化が求められている。このため、BEMS(Building Energy Management System)導入が必須となった。温度センサーや湿度センサー、人感センサーなどとあいまってエネルギー・ハーベスティングのスイッチや照明が普及するキッカケとなった。

図12 EnOcean の自己発電型ワイヤレス壁面スイッチ 出典:EnOcean

和田氏 どのような技術で電力を得ているのか。

板垣氏 これはエネルギーコンバータと呼ばれている部材だ(図13)。運動エネルギーを電力に変換する。その後、各スイッチのID情報と一緒に押されたスイッチの情報を無線で飛ばす。この他、小さく安価な太陽電池セルを使い、室内照明などの光源を電力に変換し、温度や湿度、照度などの情報をワイヤレス通信を使って送る技術もある(関連記事)。EnOceanでは、微小電力を作り、その後ワイヤレス通信を使うことに関して、数多くの特許を有している。

図13 EnOceanのエネルギーコンバータ 出典:EnOcean

和田氏 今後の日本では、どのような場所に採用されるのか。今後有望な用途は何なのか。

板垣氏 日本でも採用例が増えてきた。例えば東京の大崎にあるソニー本社ビルは、エネルギー・ハーベスティングの商品を数多く採用している。また内田洋行では、中央制御ソリューションシステムとして数多くのビルに展開している。

 今後の有望な分野としては、先ほどの医療関係(ナースコールなど)、橋梁などの建設現場におけるひずみ測定がある。ドイツなどでは既に進んだ取り組みがある。クルマでいえば、ハーネス製造・検査装置やエンジンの組み立て工程だ。防水・防爆対応が容易なことから化学工場でのスイッチやセンサーなどに活用されて行くと考えられる。

和田氏 EnOcean Allianceは、今後どのように広がっていくのだろうか。

板垣氏 EnOcean Allianceには現在約380社の会員がおり、日本でも約40社に増えてきた。EnOceanのワイヤレス通信規格はIEC/ISOで規定されている。IEC/ISOが定める物理層以外の細かな決まりごとは、EnOcean Allianceで対応している。メーカーと製品間の相互運用互換性(Interoperability)を確保することが目的だ。10年前の製品でも、あるいは今後10年後の製品でもきちんと動作するようにプロトコルを管理していく必要があると考えている。

創エネ、蓄エネ、省エネ……さらにゼロエネ

 エネルギー・ハーベスティング。一部の方はご存じかもしれないが、まだまだ日本ではなじみがない技術方式である。各企業とも研究・開発や実証試験段階にあり、まだ製品を本格投入しておらず、従って宣伝もない。

 しかし、今回各社の担当者とのインタビューで分かったことは、ボルボ、EnOcean Allianceの説明にある通りだ。欧州ではクルマ、ビルなどに採用が始まっている。特に、ビル内のスイッチとしてセンサーも含めて多数採用されているようだ。これは、ビルのエネルギー効率化に向けた法規制の影響もある。

 日本でも遅ればせながらビルでの採用が始まっており、次第に採用が広がっていくと考えられる。エネルギーについては、以前から、「創エネ」「蓄エネ」「省エネ」といわれてきたが、それに加えてエネルギー・ハーベスティングによる「ゼロエネ」が広がるかもしれない。配線が不要なことや、後加工による設置が可能なこと、人体への影響が少ないことなど、他の技術にはないメリットがある。これからの新技術として期待したい。

筆者紹介

和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。


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