太陽光発電のコストに大きく影響するのが太陽電池の変換効率だ。2030年に40%を目標に技術開発が進む中、産業技術総合研究所が新しい作製方法で30.4%の変換効率を達成した。特性が違う4種類の材料を接合することにより、波長の違う太陽光を幅広く取り込んで電気に変換することができる。
産業技術総合研究所(略称:産総研)が新たに開発したのは、「多接合太陽電池」の一種である。太陽電池は素材によってシリコン系、化合物系、有機系に分かれるが、このうち化合物系の太陽電池に使われる4種類の素材を組み合わせた。
利用した素材は「ガリウムひ素(GaAs)」「ガリウムインジウムリン(GaInP)」「インジウムガリウムひ素リン(InGaAsP))「インジウムガリウムひ素(InGaAs)」の4種類である。この組み合わせで変換効率が30.4%まで向上した。現在のところ製品レベルの太陽電池の変換効率は最高でも20%前後で、それを大幅に上回る。
複数の素材を使うことで変換効率が高くなる理由は、太陽光の波長にある。太陽光は紫外線から赤外線まで、波長(色)の違う光で成り立っている。太陽電池に使われるさまざまな素材は吸収できる波長が限られるために、単独では光を電気に変換できる効率が小さい。吸収できる波長の違う素材を組み合わせれば、より多くの光を電気に変換することが可能になる(図1)。
産総研は新たに半導体の接合技術を応用して、複数の素材の太陽電池(セル)を積み重ねる「スマートスタック」と呼ぶ接合技術を開発した。セルを接合するために、パラジウム(Pd)の微細な粒子を使う点が特徴だ(図2)。粒子の直径は50ナノメートル(nm=10億分の1メートル)で、その粒子を1平方センチメートルあたり100億個も並べる。
接合した状態を顕微鏡で見ると、パラジウムナノ粒子の層は10nm程度の薄さになっている(図3)。接合距離が短くなることで、電気抵抗も光損失も小さくなり、光から電気へ変換できる効率が高くなる。
産総研は4種類のセルを接合した太陽電池を試作して出力などを測定した(図4)。その結果、変換効率は最高で30.4%に達した。このほかにも化合物系の太陽電池で実用化が進んでいるCIGS(銅インジウムガリウムセレン)にGaAsとGaInPを接合して、3種類の素材による試作品を作製した。この場合の変換効率は最高で24.2%だった。
パラジウムナノ粒子を使った接合方法は、現在の太陽電池で主流のシリコン系と化合物を組み合わせることにも適用できる。産総研は量産化に向けて、さらに面積の大きい基板上で接合するための技術などを開発していく計画だ。
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